脳梗塞・心筋梗塞の予防法

進行中の頸動脈プラークが、スタチン中止&RAP食で退縮に転じるも、経過中に5回のプラーク悪化を認め、7年後には良好な結果が得られた1例

初診から最初の再診時にプラークが退縮することは、普通に経験されますので、初期のRAP食では脂質摂取量を減らせば、自然とプラークは退縮し続けるものと信じていました。

でも、長期に観察を行うと、脂質制限しているのにプラークが悪化するという、非常に不思議で理解不能な現象に度々直面します。

その原因の解明に多くの時間を費やす必要がありました。

今回報告の症例は、
5年前からコレステロー低下薬であるスタチン剤を服用していたのに、急速にプラークが悪化(肥厚)中であった症例で、最初の6ヶ月では、スタチン剤の中止と当時のRAP食が功を奏し、著効が得られました。

しかし、その後に5回のプラーク悪化を経験し、その都度のRAP食の修正が功を奏し、7年後には3カ所の観察ポイントが、いずれもやっと満足できるレベルまでプラークが退縮した症例を経験したので報告します。

「今回の報告に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」

<症例> 62歳 女性
<初診時の8カ所の血管エコー>

脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル=4 (0〜4) 血管エコー・実例研究 7)

<家族歴>

  • 兄弟、両親に脳梗塞(-)、心筋梗塞(-)

<初診までの経過>

  • 2006年頃 高脂血症を指摘される
  • 2010年頃 頸動脈エコー:“壁が少し厚い”と言われた (A病院)
  • 2011年頃 リピトール(5)1T,1x(一般名:アトルバスタチン:コレステロール低下薬)開始
  • 2012年 頸動脈エコー:“壁が厚い”1mm(分岐部)と言われた(A病院)
  • 2013年 リピトール(10)1T,1xへ増量となる
  • 2015年2月〜ココナッツオイル飲用開始(1日おきに小さじ1杯コーヒーに入れて)
  • 2015年4月中旬 頸動脈プラークの肥厚(右分岐部=3.2 mm, 左分岐部=3.4 mm)(A病院)
    3年でプラークが急速に肥厚 LDL=122 TG=117 HDL=63
  • 2015年8月 ココナッツオイル飲用を中止
  • 2015年10月頃 右頬の違和感が出現し、初診時まで度々出現。
     脳外科受診:MRIでは異常なし、眼科受診:異常なし
  • 2016年1月初旬 LDL=105 TG=102 HDL=60
  • 2016年6月初旬 当院ホームページを閲覧  RAP食開始
  • 2016年7月初旬 頸動脈プラークが増悪(右分岐部=4.0 mm, 左分岐部=3.8 mm)(A病院)
    2012年頃から、急速にプラーク肥厚が進行(*4年でプラークが1.0→4.0 mm)
    希望して、イコサペント酸エチル粒状カプセル(900)2,2x追加となる
  • 2016年10月初旬 LDL=78 TG=73 HDL=49         
    処方薬アトルバスタチン(10)1T,1x+イコサペント酸エチル粒状カプセル(900)2,2x」
  • 2016年10月中旬 当院初診
    主訴:急速に進行する頸動脈プラークを治したい
    体重42Kg BMI=17.7 食習慣点数=364点

食習慣
甘いもの=好き肉=大好き野菜=大好き魚=大好き揚げ物=好き、 酒類=ビール350/d & 4-5回/月の飲み会では ビールジョッキ5〜6杯運動=大いにしている、タバコ=22〜50歳頃まで 1日12〜13本 以降の喫煙歴(-)

その他:
2014年頃まで、毎朝トースト&バターの習慣。

<治療>
A-病院へ診療情報書を提供し、担当医より服薬の変更の件を快諾いただいた。

  1. アトルバスタチン(10)1T,1x---→中止(A-病院)
  2. イコサペント酸エチル粒状カプセル(900)2,2x—>継続(A-病院)
  3. ラックビー微粒N,2g,2x—開始-継続(A-病院)

<結果>

1. 右頸動脈分岐部のプラークが、7年間で3.88 mm→1.84 mmへ退縮。

2)左頸動脈分岐部のプラークが、7年間で4.14 mm→1.38 mmへ退縮。

3)左右頸動脈分岐部の、7年間における経時的なプラークの変化。

2)第3の観察部位:左大腿動脈エコーにおける経時的なプラークの変化。

コメント:

  • 左大腿動脈のプラークは2016年10月から2023年5月までに5回のプラーク増減を繰り返し、プラーク改善症例として認定はできませんでした。
  • 2021年以降のRAP食では、腸内環境保全のための細かな指導を数多く行っているため、具体的に何が功を奏したのかの判断は困難。
  • 1カ所でもプラークが悪化すれば、「治療に修正すべき点がある証拠」と考えるべきである。
  • 写真4〜10におけるプラーク改善(退縮)、悪化の表現に関して。
    観察期間が6ヶ月間以上で
    のプラーク治療効果の-おおまかな表現-(案)
    (プラークIMT≧2.00 mmの場合) IMT≦1.20 mmの場合は、基本的に評価の対象とはしない。
プラーク肥厚の減少 mm プラーク増減の表現
≧0.40 mm 著効
0.30〜0.39 mm かなり改善
0.15〜0.29 mm 改善
0.02〜0.14 mm やや改善
0.00〜0.01 mm 不変
プラーク肥厚の増加 mm プラーク増減の表現
≧0.40 mm 激しく悪化
0.30〜0.39 mm かなり悪化
0.15〜0.29 mm 悪化
0.02〜0.14 mm やや悪化
0.00〜0.01 mm 不変

<臨床経過の詳細>
・血管プラークの経時的変化

年/月 2016/10 2017/4 2017/10 2018/4 2018/10 2019/3
右頸動脈分岐部* 3.88 3.02 2.50 2.35 2.14 2.10
左頸動脈分岐部* 4.16 3.06 2.76 2.81★ 2.50 2.45
左大腿動脈* 2.22 2.20 2.05 2.16★ 2.32★ 2.25
年/月 2019/9 2020/10 2021/6 2021/11 2022/5 2022/11
右頸動脈分岐部* 2.09 2.10 1.99 1.99 1.89 1.90
左頸動脈分岐部* 2.32 2.61★ 2.50 2.21 1.79 1.48
左大腿動脈* 2.20 2.31★ 2.22 2.11 2.20★ 2.04
年/月 2023/5 2023/11
右頸動脈分岐部* 1.90 1.84
左頸動脈分岐部* 1.48 1.38
左大腿動脈* 2.13 1.85

*=max IMT(mm) ★=悪化

LDLの経過
2011年1月頃から リピトール(5)1、1x服用開始
2013年3月頃から(10)1Tへ増量し、
2016年10月中旬(当院初診)までアトルバスタチン(10)1T,1xで服用。

2015
/4
2016
/1
2016
/10
2017
/3
2017
/9
2018
/3
2018
/9
2019
/2
LDL 122 105 78 150 139 146 145 131
TG 117 102 73 100 86 122 120 98
HDL 63 60 49 52 50 47 40 44

2016年10月中旬以降、現在までスタチン剤の服用なし。

2019
/8
2020
/8
2021
/5
2021
/11
2022
/5
2023
/11
LDL 135 135 149 172 154 166
TG 112 102 116 103 105 142
HDL 38 39 38 55 50 51

・体重の変化
初診時の2016年10月 42Kg ----→2019年3月 40Kg-------→2023年11月 41Kg

<プラーク退縮治療による症状の変化>

 

<考察>

  1. スタチン剤(アトルバスタチン)を5mgから10mgへと増量した頃から急速にプラークが堆積しだし、3年で頸動脈プラークが1.0->3.2 mm その1年後には3.2 mm→4.0 mmへと急速にプラークの肥厚が生じた。(同一病院での観察)

    合理的に考えて、スタチン剤の投与・その増量がプラークの進展と大いに関係していることが推察できる。このことは、スタチン剤を中止した後の6ヶ月で、プラーク退縮が極めて良好であったことからも納得できる。(写真4)

    尚、本症例は頸動脈エコーを定期的に受けていたので、危険回避ができたものと考えられる。

    頸動脈エコーを施行しないで、LDLだけで動脈硬化の進行を判断するのは極めて危険
    である。
  2. スタチン剤を服用中であった症例は、スタチン剤をoffにしてRAP食で治療すると、スタチン剤を服用していない症例よりも、プラーク改善度が非常に良い場合がある。 動脈硬化の未来塾 119) 動脈硬化の未来塾 125) 動脈硬化の未来塾 130)
  3. 初期のRAP食(脂質制限のみを努力)では、経過中にプラークが悪化に転ずることも多く、継続して各種の健康に良いとされる食品などの過剰・継続摂取には注意が必要。動脈硬化の未来塾 146)
  4. 多部位にプラークの肥厚を認める場合は、複数カ所のプラークの増減を経過観察し、全ての部位のプラークが退縮するように、RAP食を修正すべきである。

    1ヶ所のプラークが退縮しても、他の部位ではプラークが悪化する場合も稀ではない。 動脈硬化の未来塾 94) 動脈硬化の未来塾 146)

    その際の修正点としては、腸内環境の保全・腸内細菌叢のバランスの崩壊の防止にも努めるべきである。

    全ての観察ポイントのプラークが退縮傾向でなければ、本人が現在まで行なってきたRAP食に修正すべき点があると考えるべきである。 動脈硬化の未来塾 145) 動脈硬化の未来塾 146)

    今回は、3カ所のプラーク観察場所において、5回のプラーク悪化を認め(写真5、6、9,10)、 最終的には2023年以降のRAP食で、今後も継続退縮が得られる状況になったので、症例報告することにした。

<まとめ>

  1. スタチン服用中に、脳・心臓や頸動脈などの動脈プラークが急速に肥厚する場合が考えられるので、LDL値だけで動脈硬化の進行・安定を判断するのは極めて危険である。動脈硬化の未来塾 68)
  2. 脂質制限食を行い、健康に良いとされている食品を摂取しているからといって、決して安心していてはいけない。
    そのような場合にこそ、プラークが反転して悪化する場合が多い。
  3. 常識を鵜呑みにせず、正しく努力すれば、副作用も多々あるスタチン剤を飲むことなくプラークを減らせる。

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- レオナルド・ダ・ヴィンチ -
“ ちっぽけな確実さは、大きな嘘に勝る ”

2023年12月12日記載
真島消化器クリニック
真島康雄

 


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