脳梗塞・心筋梗塞の予防法

スタチン製剤でLDLを下げるのは危険。安心+αで動脈硬化(プラーク)が進行する

スタチン剤は肝臓のLDL合成能力をダウンさせ、血液中のLDLを下げる作用があります。
ただし、スタチン剤を服用したからといって、その本人の飲・食習慣(生活習慣)を変える働き(効果)はありません。ですよね〜。

Q: じゃ〜、薬でLDLが下がったからといって、生活習慣が改善されなければ・・その飲み食いした・・その残飯はどこへ行くのでしょう・・?・・スタチン剤が溶かすのでしょうか?

A: スタチン剤の継続服用は動脈硬化改善にブレーキがかかり、むしろその服用にて動脈硬化が悪化します。 そして、男性ではLDLを下げすぎると、更に動脈硬化が進行(悪化)します。 食べ過ぎで生じる残飯は、スタチン剤で溶けることなく、血管プラークとして沈着します。酒類の飲み過ぎは、残飯が血管壁内にどんどん染みこむ手助けをします。

このアンサーは、人間の(動脈硬化)プラークの総量と近似値であるT-max値の発明で得られた様々な研究結果から導き出されました。


研究1.

研究目的:

「スタチン剤服用が動脈硬化の進行を食い止めているか?」の検証

対象:

2017年3月までの9年8カ月間に8カ所の血管エコー(T-maxを測定)を行った5339例を背景として、
当院初診時に、2年以上も継続してスタチン剤を服用中であった299例(男性102例、女性197例)のスタチン群と、初診時にスタチン剤・その他の脂質改善剤(EPAやDHA製剤を除く)を服用していない症例を非スタチン群として対象とした。非スタチン群においては、過去における脂質改善剤の服薬既往症例は対象から除外した。
なお、スタチン群では脳・心血管イベント(脳梗塞・心筋梗塞・冠動脈バイパス術・冠動脈ステント術や拡張術・一過性脳虚血発作・無症候性脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)後のスタチン剤服用開始例や各種画像診断にて動脈硬化の指摘がなされた後のスタチン剤服用開始例は対象から除外した。
非スタチン群でも、脳・心血管イベントの既往歴がある症例は除外した。
T-max値は初診時の計測値である。両群共に50歳以上で検討した。

方法:

初診時にスタチン剤の服用歴を詳しく問診し、
男女別に両群のT-max、LDL、TG、HDL、L/H比をそれぞれ比較検討した。
なお、T-maxは年齢、性別で大きく変化するので、対照群間での平均年齢が異なる場合には平均年齢が同じくなるように機械的に年齢を制限した(表中@)。

299例のスタチン群の平均服薬期間は約7年(88.5±55.8カ月:最短2年、最長24年)であった。男性では80.7±55.2カ月(最短2年 最長24年)であり、女性では92.4±55.6カ月(最短2年 最長24年)であった。

備考:

  • F-max:左右の大腿動脈で最もプラークの厚い部位の厚み:(mm)
  • A-max:腹部大動脈〜左右の腸骨動脈で最もプラークの厚い部位の厚み:(mm)
  • S-max:右鎖骨下動脈〜腕頭動脈で最もプラークの厚い部位の厚み:(mm)
  • C-max:左右の頸動脈で最もプラークの厚い部位の厚み:(mm)
  • T-max=F-max+A-max+S-max+C-max (mm) = 総合動脈硬化指数

表1

結果:

1) 男女共にスタチン群のT-maxは非スタチン群よりも、有意に高値(動脈硬化が進行)であった。
・・つまり・・スタチン剤を飲んでいた人は飲んでいなかった人に比べて、動脈硬化(プラーク)が改善するどころか、逆に明らかに悪化していた。

2) 男女共にスタチン群のL/H比は、非スタチン群よりも有意に低値であった。

考察:

1) 動脈硬化の進行が遅くなる期待を込めて、スタチン剤を服用(投与)しているのですが、確かにスタチン剤はLDLやL/H比を下げる働きはありますが、それで医療サイドが満足し、プラーク進行に関する危機管理(食生活指導)が極めて疎かになっている可能性が示唆されます。

同時に、患者サイドへは「現状の飲・食習慣でもいいのだ!」との、誤ったメッセージとなり・・そのためにプラークが更に悪化している可能性が示唆されます。サブ解析では特に男性でその傾向が顕著と思われた。

2) 薬でLDLが下がった、L/H比が下がった・・・コレステロールの結果に一喜一憂している医療は改善されなければなりません。

3) 全身のプラークを観察しながら食生活指導するのが現代・未来に求められる医療の姿であろうと思われます。

4) 現代の動脈硬化学はプラークを食べて掃除してくれているマクロファージの働きを認めていません。認めると、スタチン剤のマイナス要素が大きく目立つからです。 スタチン剤は免疫抑制剤としての側面も知られており、今回の結果を真摯に受け止めれば・・マクロファージの貪食能を抑制している可能性があります。(動脈硬化の未来塾 52)

5) ある研究「スタチン剤と高純度EPA併用群と、スタチン剤単独群の追跡調査では、スタチン剤単独群よりスタチン剤と高純度EPA併用群の方が有意にイベント発生を抑制した」がありますが、だからスタチン剤は捨てがたい・・と、考えるDrもおられます。 しかし・・

今回の結果から、 スタチン剤はプラーク改善を邪魔していますから・・高純度EPA単独群ではもっといい結果になった可能性を否定できません。

6)「LDLが高いと血管の内側が汚れる(プラークが溜まる)=動脈硬化が進行」との説を100歩譲って・・認めたとしましょう。
そうすると、例えばですが、スタチン剤でLDL200を90まで下げたら病院で褒められます。

でも、動脈硬化(プラーク)の進行速度が遅くなるだけですよね・・・・でも・・なにか変ではないですか?・・その考えではプラークは絶対に改善しないことになります。 でも、改善するのは事実ですよね(動脈硬化の未来塾 38)

7)「スタチン製剤は動脈硬化や心不全を促進する」とする、薬理学的メカニズムの論文(Okuyama H,et al: Statins stimulate atherosclerosis and heart failure: pharmacological mechanisms. Expert Rev Clin Pharmacol 2015; 8(2):189-99)も興味深いです。
スタチン剤は細胞のエネルギーを作り出す発電機に相当するミトコンドリアに対して“毒”であることはよく知られています。そうするとプラークを貪食掃除する細胞であるマクロファージの発電機であるミトコンドリアも障害を受けるでしょうし、そうすればマクロファージがプラークを食べる食欲も低下するのは道理ですね・・つまり、スタチン剤を服用すれば、掃除する細胞が疲れてヘトヘトになるわけです。その結果、ゴミ(プラーク)の掃除能力が低下するので、プラークが血管壁に多く溜まる(溜まる一方で減らない)のは自然の成り行きです。

今回の研究はこの仮説が正しいことを証明したことになります。血管のゴミ(プラーク)の総量を計算できる当施設でなければ、このような調査研究は不可能でしょう。

DrもDrでない方も、スタチン剤でLDL,L/H比が下がったなどと決して、喜んではいけません。その先には・・とんでもない落とし穴が待ち構えているかもしれません。

8)スタチン剤を服用していた群は、服用前にLDLが高値であったろうと推察されますが、男性の場合は特にLDL値とプラーク(T-max)との関係は認められない(動脈硬化の未来塾 35 )
ので、スタチン剤を服用することによって、服用していない人に比して明らかにプラークが悪化したものと考えられます。

結語:

スタチン剤には副作用(気力の低下、関節痛、筋肉痛、肝障害、横紋筋融解症、糖尿病を誘発、その他、などの副作用が知られている)もあり、今回の結果では、スタチン剤を服用していた群では動脈硬化(プラーク)はむしろ進行していた。 したがって、動脈硬化症対策としてのスタチン剤の使用は控えるべきだと考えられる。

ただし、身体各所に黄色腫が発現するなどの家族性の特殊なケースは、RAP食を厳密に行う前提でスタチン剤内服の適応があるかもしれない。


研究2

研究目的:

「LDLはできるだけ薬で下げた方がいい」という学説は正しいのか?

対象:

研究1のスタチン群:299例を、男女別にLDLが80以下の群とLDLが81以上の群に分けて検討

方法:

LDLの値で分けられた両群において、T-max値、LDL、TG、HDL、L/H比をそれぞれ比較検討した

表2

結果:

1)男性では、LDLが80以下の群では、LDLが81以上の群に比較してL/H比は1.28まで有意に低下し(病院では褒められます)、T-maxは逆に高い傾向であった(P=0.1)。

3) 女性では、LDLが80以下の群では、LDLが81以上の群に比較してL/H比は1.27まで有意に低下し、T-maxは両群間に差を認めなかった。

考察:

男性では、スタチン剤で強力にLDLを80以下まで下げると、マイルドに下げる方法よりもプラークの堆積は進行する傾向にあり、強力なスタチン剤がマクロファージ抑制に強く作用するのかもしれない。 今回の結果から、「LDLをできるだけ下げるのが動脈硬化抑制になる」という学説を採用するのは危険であると思われる。

今回の結果を、例え話で説明すると・・商売において・・「売り上げはかなり上がった(LDLやL/H比はかなり下がった)が・・でも・・なぜか・・預金残高は減った(プラーク悪化:T-max上昇)」・・・・といった笑えない結果でした。

・・この場合、経営責任者は真摯にその経営戦略は誤りであった・・と反省しなければいけません。

身体を経営する個人経営者にとって、預金残高の増減(プラークの減増)が見えないことは・・悲しく、とても恐ろしいことです。

結語:

1)男女共にスタチン剤でLDLを80まで低下させても、動脈硬化は改善しない。
特に男性ではLDLを80以下まで低下させると、むしろ動脈硬化(プラーク)が悪化する傾向にあった。


<総合まとめ>

高血圧がない人がスタチン剤を服用する・・その心理学的考察を踏まえて・・結果を考える

高血圧がある人

今回の、9年8カ月間にもおよぶT-maxを用いた研究では・・

「スタチン剤を飲んでいる人が、飲んでいない人よりも・・むしろ、動脈硬化が進行している」・・という結果でした。・・・この測定結果は揺るぎのない真実です。

スタチン剤を服用中の方は、スタチン剤を止めて、EPA製剤またはEPA・DHA製剤に変えていただきましょう。そして、真摯な態度でRAP食を参考に食生活を考え直しましょう。
(一方で、スタチン剤を飲んでいないからと安心してはいけません)

8カ所の血管エコーを受けなければ、御自身が本当に健康かどうか判りません。

最近、ある開業医の方がスタチン剤を御自身で2年半も服用されていましたが・・当院のホームページをご覧になって・・スタチン剤をEPA製剤に変更されて・・当院へ受診されました。

当院のホームページを読んでいただくご縁があれば、医師でも・医師でなくとも・・・だれでもが私の考え、8カ所の血管エコー検査、検査で得られた知見、治療に納得されるでしょう。

皆様の本当の健康をお祈りします


2017年3月21日記載
2017年4月10日修正

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