久留米市野中町の肝臓内科・血管内科・消化器内科・乳腺内科です。電話:0942-33-5006
マクロファージの仕事ぶり(異物の貪食能)を、生体内で直接観察できる唯一の方法・・それは、血管プラークの減少や増加を0.01〜0.02mmレベルで精密に測定できる血管エコー検査なのです。
MRIでは、プラークを0.1mmの精度でさえ正しく評価できません。
初期のRAP食では、脂質摂取量をある程度に減らせば、「マクロファージの貪食能は、常時一定量と考え、脂質摂取量がM-line以下ならプラークは退縮する」と考えていましたが、この発想は間違っていました。
マクロファージの貪食能は一定ではないどころか、腸内環境の良悪によって、天と地ほどの開きがあることに気付きました(後述)。
今回、初期のRAP食(2017年)を開始して4ヶ月後にプラーク悪化を経験し、その後も5回のプラーク悪化を経験するも、6年後には満足できるプラーク退縮を成し遂げられ、RAP食(2023年)への進化に貢献できた1症例を経験したので報告する。
「今回の報告に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」
<症例> 51歳男性
<初診時の8カ所の血管エコー>
<家族歴>
父:61歳:他界(胃がん&脳梗塞)
<初診までの経過>
食習慣
「甘いもの=大好き、 肉=普通、野菜=普通、魚=普通、揚げ物=大好き、酒類=飲まない、運動=あまりしない、タバコ=喫煙歴なし」
その他:
特にお菓子類が大好きで、スナック菓子、チョコレート、ジャイアントコーン、鳥の唐揚げをよく食べていた。
<治療>
<結果>
1)左頸動脈分岐部のプラークが6年間で3.54mm→1.59mmへ退縮。
2)左右の頸動脈の経時的な変化
・写真3〜9におけるプラーク改善(退縮)、悪化の表現に関して。
期間3〜4ヶ月間でのプラーク治療効果の判定基準(動脈硬化の未来塾 117))
プラーク肥厚の減少 mm | プラーク増減の表現 |
---|---|
≧0.30 mm | 著効 |
0.20〜0.19 mm | かなり良好 |
0.15〜0.49 mm | 良好 |
0.10〜0.14 mm | 改善不良 |
プラークのIMTが≦1.00の場合は評価の対象とはしない。サイズが同じなら“不変”と表現。
プラーク肥厚の増加 mm | プラーク増減の表現 |
---|---|
≧0.30 mm | 激しく悪化 |
0.20〜0.19 mm | かなり悪化 |
0.15〜0.49 mm | 悪化 |
0.10〜0.14 mm | やや悪化 |
<経過の詳細>
・血管プラークの経時的変化
年/月 | 2017/10 | 2018/2 | 2018/6 | 2018/10 | 2019/2 | 2019/6 |
---|---|---|---|---|---|---|
左頸動脈分岐部* | 3.54 | 3.16 | 2.91 | 2.75 | 2.99 | 3.27 |
右総頸動脈* | 1.79 | 2.36 | 2.01 | 1.52 | 1.39 | 1.37 |
*=プラークの最肥厚部(mm)=max IMT
2019/10 | 2020/2 | 2020/6 | 2020/10 | 2021/2 | 2021/6 | 2021/10 | 2022/2 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
2.97 | 2.45 | 2.35 | 2.51 | 2.04 | 2.51 | 2.40 | 2.30 |
1.28 | - | 1.04 | 1.03 | 0.87 | 0.77 | 0.77 | 0.77 |
2022/6 | 2022/10 | 2023/2 | 2023/6 | 2023/10 |
---|---|---|---|---|
2.09 | 1.99 | 1.80 | 1.79 | 1.59 |
- | - | - | - | 0.87 |
・LDLの経過
2017 /11 |
2018 /6 |
2018 /8 |
2018 /12 |
2019 /4 |
2019 /7 |
2019 /8 |
2020 /1 |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
LDL | 76 | 87 | 85 | 100 | 98 | 85 | 84 | 88 |
TG | 113 | 99 | 97 | 116 | 120 | 105 | 83 | 123 |
HDL | 60 | 57 | 58 | 58 | 58 | 53 | 54 | 60 |
2020 /4 |
2020 /7 |
2020 /8 |
2020 /12 |
2021 /2 |
2021 /4 |
2021 /8 |
2022 /1 |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
LDL | 106 | 100 | 120 | 109 | 106 | 109 | 97 | 122 |
TG | 176 | 117 | 104 | 209 | 163 | 159 | 226 | 115 |
HDL | 57 | 54 | 57 | 50 | 55 | 53 | 45 | 57 |
2022/9 | 2023/2 | 2023/7 | 2023/9 | |
---|---|---|---|---|
LDL | 100 | 112 | 84 | 79 |
TG | 142 | 106 | 110 | 92 |
HDL | 52 | 66 | 57 | 64 |
・高血圧が完治
初診時(2017/10月)アムロジピン(2.5)1―服用中
2023年4月中旬にアムロジピン(2.5)1―中止。(血圧安定のため)
2023年10月現在で血圧は安定で、降圧剤の服用なし。
・SAS(睡眠時無呼吸)が完治
初診時(2017/10月)頃はSAS+であったが、2023年10月現在は、完治状態。
<考察>
<プラーク退縮に関して、なぜ激しく悪化? なぜ著効に?>
今までの多くのプラーク観察の経験によって、腸内細菌叢のバランスの良し悪しで、マクロファージの活性(プラーク貪食能)が0〜100まで比較的短時間で想像以上に大きく変動していると感じます。
例えばですが、普通の食習慣・生活習慣では、パワー50の貪食能で働いているマクロファージが、腸内細菌叢のバランスが崩壊すると、パワー0まで低下し(プラークが激しく悪化)、バランスが非常に良くなればパワ−100でプラークを貪食(プラーク改善が著効)しているような感動を得ています。
そもそも、脂質をどれだけ制限しても、プラークの原材料は脂質ですから、現代医学で正しいと信じられている「動脈硬化のメカニズム」が本当に正しければ、科学的に考えて、プラークが減ることは決してありません。
ですから、プラークが進行中の場合、スタチン剤で血液中のLDLをどんなに下げても、科学的・合理的に考えて、スタチン剤を飲むだけでプラークが減る道理はありません。
なぜなら、スタチン剤はマクロファージの貪食能を低下させる可能性はあっても、貪食能を亢進させる働きは認められていません。
<2箇所観察していて、1箇所のプラークは著効で、1箇所は激しく悪化・・・なぜ?>
仮説ですが、『腸内細菌叢のバランスが悪い状態では、マクロファージの貪食能力が低いけれども、動脈狭窄率が高度な場所にマクロファージを集中させようという指令が全身のマクロファージに伝わり、他の部位にプラークが多少堆積していても、その場所は腸内環境悪化状態による働き手不足(元気なマクロファージ不足)のために、放置され、プラークが急速に堆積する。
そして、腸内環境が整ってくると、急速に堆積した部位も緊急に貪食すべき部位にリストアップされて、プラークが急速に改善する。』
したがって、複数箇所の観察結果で、1箇所でもプラークが悪化するなら、何らかの修正点(腸内細菌叢のバランスの崩壊など)が存在すると理解した方が良さそうです。
このような、常識では考えにくい経験を2〜3例で経験した場合、その事実に真摯に向き合い、腸内細菌やマクロファージの生態に関しての動物行動心理学的な観察・・例えば、ファーブル昆虫記みたいな観察と検証を繰り返して、RAP食を進化させています。
<まとめ>
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- レオナルド・ダ・ヴィンチ -
“ ちっぽけな確実さは、大きな嘘に勝る ”
2023年11月15日記載
真島消化器クリニック
真島康雄