久留米市野中町の肝臓内科・血管内科・消化器内科・乳腺内科です。電話:0942-33-5006
果物や穀物を酢酸菌で発酵させた食品である「醸造酢」や、クエン酸を多く含む「レモン果汁」などは、健康に貢献する食品である・・・と・・現在では・・誰もが・・信じて疑いません。
食品の動脈硬化予防に関する貢献度は、膨大な品数の食品を対象とした複数の疫学調査の結果や、食品に含まれる成分(腸内細菌叢への影響は無視)を重視して評価され、それが現代医学では常識とされています。
でも、これらの評価には「一般的な人の食習慣における、食事目的での食品の摂取量の範囲内で」・・という、暗黙の条件が存在します。
なので・・「ある食品」を、「薬」的な効果を期待して過度に摂取した場合の影響は・・・、別枠で評価される必要があります。
今回、健康のために、毎日「酢とレモン果汁摂取」を開始した頃から、頸動脈プラークが急速に進行したため、それらを中止したところ、速やかにプラークが退縮し、その後も退縮が継続したことで・・・毎日の「酢とレモン果汁摂取」が・・プラーク悪化に大きく関与していたと考えられる症例を経験したので報告します。
「今回の症例呈示に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」
『症例提示』
症例 54歳 女性(血管エコーを初めて受けた:2014年4月時点)
症状:特になし
<臨床経過>
<結果>
<考察>
<結論>
食用酢やレモン果汁を頻回に飲用することは, 動脈硬化(プラーク)の悪化をきたす場合がある ので危険である。
なお、料理に使う程度の食酢がどのように影響するかは、さらなる研究が必要と思われます。
ただし、酸っぱいドレッシングなどを頻回に使用することや、酢漬けの食品を頻回に摂取することは控える必要があるかもしれません。
・・・・・・知っているようで・・案外知らない・・・【豆知識】・・・
<食酢は国が農薬として指定していますが・・ご存知ですか?>
食酢の頻回摂取・・特に飲用摂取・・の危険性について、図で説明いたしましょう
食酢は有機酸の中でも、最も殺菌力が強い酸です。
図4の解説:
○酢の主成分である酢酸は、有機酸の中でも最も殺菌力が強く、0.1%の低濃度でも殺菌力がありますので、食酢は農薬に指定されています。
○量を多く飲用すると、早々に・・小腸まで流れ、小腸で酢酸が全て吸収されることなく、大腸まで到達し・・・腸内細菌叢の破綻やバランスの変化をもたらすと考えられます。
(注:通常は、経口摂取した少量の酢の酢酸は小腸上部までで吸収され、小腸下部や大腸までは到達しないと考えられています。)
<レモンが健康にいいと信じている人への、信じたくはない情報です>
アユの冷水病菌に、各種の有機酸(クエン酸など)がどのくらいの濃度で抗菌・殺菌効果があるかの研究。
図5の解説:琵琶湖のアユの冷水病を、有機酸で予防できないかの研究です。
冷水病の病原菌は、バクテロイデス門の細菌です。
バクテロイデス門の菌はヒトの腸内細菌叢の主な部分を占めている菌で、日和見菌とも呼ばれています。(後述)。
研究の結果(図5):
○クエン酸は、0.1%の低濃度でも抗菌力・殺菌力があります。
○乳酸も、0.1%の低濃度で殺菌力があります。
注1):ヨーグルトの乳酸濃度は0.85〜1.20%とされていますから、ヨーグルト自体でも抗菌力があり、過食すると、乳酸で腸内環境のバランスが破綻する可能性もあります。
注2)レモン果汁には約6%のクエン酸が含まれており、20〜30倍に薄めた溶液でも、十分な殺菌力があります。薄めて大容量を飲む場合は、小腸下部へクエン酸が到達する確率が高くなり、腸内細菌叢に影響を与える可能性が高くなると思われます。
注3)牛乳の乳酸濃度は、通常0.12%程度ですから、成人でプラークを指摘されたら、ヨーグルトも牛乳も、過剰な摂取は控える方がよろしいでしょう。
なお、カルシウムは塩無添加煮干しから摂取可能です。
<レモン果汁は・・・骨密度を上げる?・・でも殺菌力も強いのです>
2021年4月、レモン果汁摂取で骨密度が上昇するなどの情報がNHK“ためしてガッテン”が放映されていましたが・・・それは、本当でしょうか?
レモンは有機酸であり、クエン酸が6%も含まれており、殺菌作用があることは周知の事実です。
クエン酸は0.1%溶液でも抗菌・殺菌作用があり(前述)、レモン果汁を日常的に薄めて飲んでも、腸内細菌叢のバランスが変化し→マクロファージの貪食能が低下→プラークが肥厚し→高血圧になる・・そういう人が増えるのでは・・と危惧され・・過去の疫学調査を調べました。
やはり、レモン農家の婦人は、市街地の一般女性よりも血圧が有意に高いことが・・2010年に報告されていました。(図6)
人間と科学 県立広島大学保健福祉学部誌 10(1) 67-73 2010
図6の解説:レモン農家の人は、日頃からレモンを多く食していると思われるので、骨密度も高く、生活習慣病の指標も良好に違いない・・・という仮説の基に、他の地域との比較で、骨密度の程度を比較した疫学調査がなされ、2010年に論文として発表されています。
研究の方法と結果は図6の表に記載のごとくですが、
研究対象:
<結果 >
『骨密度測定』
『血圧測定』
<個人的な見解>
1)レモン農家の人は坂道を何度も上り下りするので、大腿骨骨頭部に負荷がかかりやすく、そのために大腿骨の骨密度が高いのではないでしょうか。食品で骨密度が上昇するのなら、腰椎の骨密度も上昇していいはずですが・・。
2)S・Y町グループの運動量は、M市グループよりも遥かに多いと推察され、普通に考えれば、生活習慣病になり難く、血圧は低いはずですが、結果は想定とは逆に血圧は高かったのです。
やはり、レモンの頻回摂取で・・おそらく動脈内のプラークが(M市グループよりも)肥厚していて・・それが原因で血圧が高くなっていると考えれば・・納得がいきます。
高血圧の真の原因は血管プラークの肥厚ですから。(動脈硬化の未来塾 54))
3)レモン果汁(pH2.1)を薄めたレモン水の頻回摂取にてプラークが悪化し、中止してプラークが改善した症例が複数例存在し、Vit C摂取が目的ならば、酸っぱくない他の柑橘類(pHは3.6以上)をお勧めいたします。
なお、酢やレモン果汁(薄めても)を頻回飲用すると、歯のエナメル質が溶けて、虫歯や知覚過敏な歯になり易いです。歯の知覚過敏を治すには、まず・・pH3.5以下の食品・ドリンク剤を控えることが重要です。
<乳酸菌・ヨーグルト(牛乳・豆乳)の過摂取は危険です>
まず、衝撃的な事実をもう一度ご覧ください。
2018年10月下旬から2019年5月上旬にかけて、当院で経験された症例です。
詳細は(動脈硬化の未来塾 122))参照を。
その理由として
@:ヨーグルト内の乳酸濃度は1.0%前後ですから・・、ヨーグルトの頻回の多量摂取にて腸内細菌叢のバランスが破綻(腸内のバクテロイデス門菌が減少)します・
(冷水病菌などバクテロイデス門の細菌は酸に弱い:)
A:生きた乳酸桿菌(学名:ラクトバチルス:Lactobacillus)は酸にも強く、雑菌も生えにくい・・そういう強い乳酸菌が、腸内の弱い有益菌を駆逐し、腸内細菌叢のバランスが破綻(Lactobacillales 目菌が増加)します・・
・私が考える動脈硬化理論では・・この2点の相乗効果で・・免疫の異物貪食能が極端に低下し、極端なプラーク肥厚を来した・・との考察・仮説が成り立ちます。
その仮説を裏付けるかのような報告があります(図8)。
<冠動脈疾患の人の便では:乳酸菌が増え、バクテロイデス門菌が少ない>
冠動脈疾患の患者さん達の便をDNA鑑定調べると、バクテロイデス門菌が減少し、乳酸菌と同じ仲間の菌(Lactobacillales 目菌)の割合が多いという報告です。(図8の文献20)
Emoto T, Yamashita T, Sasaki N, et al.: Analysis of Gut Microbiota in Coronary Artery Disease Patients: a Possible Link between Gut Microbiota and Coronary Artery Disease. J Atheroscler Thromb 2016; 23: 908―921.
図8の説明:冠動脈疾患患者の腸内細菌叢を調べると、
○Lactobacillales 目菌が増え,Bacteroidetes 門菌(Bacteroides属菌 + Prevotella 属菌)が減っている
上記の図8と同様の結果の報告が、中国からもなされています(Cui L, Zhao T, Hu H, et al.: Association study of gut flora in coronary heart disease through high- throughput sequencing. Biomed Res Int 2017; 2017: 3796359.)。
注):ラクトバシルス属は、糖を乳酸に代謝する乳酸菌群の大部分を占めている。
したがって、
<健康な人の腸内細菌叢:バクテロイデス門菌の割合が多い>
動脈硬化が進行した人や、健康な人の腸内細菌叢のバランスに関して・・最近、NHKのクローズアップ現代でも取り上げられました(図9)。・・京都府立医科大学、他の研究です。
学術雑誌『Microorganisms』に2022年3月20日付で掲載
図9の研究結果は、
『高血圧・糖尿病を抱える人たちが多いType Aでは・・バクテロイデス門の菌の減少が目立ち、2番目に健康な人たち(Type B)のバクテロイデス門の菌は多かった。
とくに、プレボテラ属の菌(バクテロイデス門の中のプレボテラ属)が多く認められた人たちは、食物繊維を多く摂っていた Type Eの人たちで、最も健康なグループであった。』
いくつかの研究で共通しているのは、
動脈硬化が進んだ人たちの腸内細菌を検討すると、バクテロイデス門の菌の割合の減少が認められる。
つまり、
動脈硬化の抑制の観点からは・・
バクテロイデス門の菌が、決して減少してはいけない。
注:バクテロイデスは日和見菌とされ、その和名のごとく、「悪玉菌が繁殖すると悪玉菌の味方に、善玉菌が繁殖すると善玉菌の味方になる」らしいです。
(事実かどうか、その味方になるという、意味合いも不明)
<枯草菌の仲間の細菌が入った骨密度改善サプリメントは安全か?>
枯草菌:バチルス・サブチリス(C-3102株)を配合したサプリメントの6ヶ月服用にて、「破骨細胞の働きを抑えることで・・有意に骨密度が上昇した」・・との結果を受けて、メーカーから「骨密度を高めるC-3102株菌入りのサプリメント」が販売されています。
なお、その製品の機能性表示の届け出には「採用された文献2報を精査した結果、24億個以上の枯草菌C-3102株を含む錠剤を摂取させることで、プラセボ群と比較して、その人がもともと持っている善玉菌(ビフィズス菌、酪酸産生菌)を増やすことで、腸内環境(腸内フローラ)を改善することがわかりました。・・」と記載があります。
2本の文献のうち1本は恐らく鈴木ら(以下に記載)の論文と思われます。
鈴木ら:腸内細菌学雑誌 , 18, 93(2004).の研究によれば
内容:C-3102 株大豆培養物の摂食試験によるヒトの腸内環境の改善に関する研究であり、結果:「腸内腐敗産物を産生する Bacteroidaceae や Eubacterium の有意な減少と,腸内の 総菌数に対する Bifidobacterium の割合が増加することが明らかとなった」・・という内容です。
機能食品の申請書には、Bacteroidaceae:バクテロイデス科 の細菌が減少した事実の記載がありません。
C-3102 株を摂取することで、バクテロイデス科の細菌が減り、動脈硬化が進行しないか心配です。
なぜなら・・・
バクテロイデス科の細菌が減り、腸内環境のバランスが変化し、マクロファージの・・ひいてはマクロファージが変身した破骨細胞の働きが抑制され・・骨密度が上昇している可能性を否定できません。
もしそうなら、破骨細胞と同様にマクロファージの貪食能も減り・・プラークが悪化する可能性も否定できません。
注:)破骨細胞は単球・マクロファージ系細胞が分化した細胞とされています。
この私の素朴な疑問が解消されないうちは、プラークの心配がある方は、骨密度を高めるサプリメントは控えた方が無難かもしれません。
<骨粗鬆症の薬:「ビスホスホネート」「ラロキシフェン」は安全か?>
骨密度を高めるためのお薬「ビスホスホネート」は、破骨細胞のアポトーシスを誘導し、破骨細胞の能力を低下させて骨密度を高めようとするお薬です。
「ビスホスホネート」系の薬剤としては、製品名としては、ボナロン、フォサマック、アレンドロン、ダイドロネル、ボノテオ、リカルボン、アクトネル、ベネット、リセドン・などのお薬があります。
「ラロキシフェン」系の薬剤として、製品名:エビスタなどのお薬があります。
「ラロキシフェン」は、破骨細胞の寿命縮め、破骨細胞の力を抑制して骨密度を高めようとするお薬です。
これらのお薬で効果があまり見られなければ・・・長期に服用するのは慎重にならざるを得ません。薬の中止に関しては、必ず担当医とご相談ください。
特に、動脈の石灰化の退縮(縮小)・治療(動脈硬化の未来塾 127))(動脈硬化の未来塾 82))する際には、マイナスだと思われます。
なぜなら、動脈の石灰化を減らせるのは・・唯一、破骨細胞だけだと思われます。
骨密度を高めたいなら、塩無添加煮干し:12gの毎日摂取でも実績があります。
・・つぶやき・・・
レオナルド・ダ・ビンチの言葉
『あらゆるものは、他のあらゆるものと関連する。』
2022年9月26日記載
真島消化器クリニック
真島康雄