脳梗塞・心筋梗塞の予防法

動脈プラーク(動脈硬化)の改善によって、片頭痛が完治したと思われる1症例。

日本人で、「片頭痛」の有病率は・・40歳以降の男性で約4%前後、40歳以降の女性で約10%前後といわれています。(Sakai, F. et al.:Cephalalgia. 1997;17(1):15-22.)

2018年、デンマークから「片頭痛持ち」が将来どうなるか・・・?・・の、かなり大規模な疫学調査結果が報告されました。(Adelborg K, et al. Migraine and risk of cardiovascular diseases: Danish population based matched cohort study. BMJ 2018;360:k96.)

内容は・・「片頭痛」の人は・・一般の人に比べて・・19年後の集計において・・心筋梗塞に約1.5倍・・・脳梗塞に約2.3倍・・も多く・・罹患していた” という結果です。

つまり、「片頭痛持ち」の人は・・一般の人よりも・・プラークの堆積時期が早い・・つまり・・・プラーク堆積スピードが速い・・・と言えますが・・その理由は食習慣です。(数学・統計学的な考察)

今回、RAP食による動脈プラークの退縮と時期を同じくして・速やかに・・臨床診断である「片頭痛」が完治した症例を経験したので報告します。

「今回の症例呈示に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」

症例 50歳 男性
(写真1)

<現病歴>
2006年6月上旬 初診・・49歳男性 肝機能障害で当院へ受診 BW=76Kg (BMI=26.3%)
腹部 US=45%の脂肪肝 GOT=30 GPT=49 r-GTP=41
2006年10月中旬 夜間の頭痛+ 鎮痛剤の服用でも効果なく、救急車で総合病院へ搬入。
      脳 CT で異常なく、「片頭痛」と診断される。その後も1/月の頭痛が継続。

2007年1月下旬 腹部US=50%脂肪肝 GOT=42 GPT=65 r-GTP=52
        体重を減らす指導を行う
2007年5月下旬 初めての血管エコー(写真1)BW=72Kg GOT=21 GPT=27 r-GTP=35

   頸動脈&右鎖骨下動脈のプラーク≦1.5 mm、肝機能改善のため、4年間受診なし

2011年6月頃〜 夜間に胸のチクチク感でしばしば覚醒したり、
       相変わらずの1/月の頭痛などがあり、市販の鎮痛剤が欠かせない状況に・・

       なので・・・

2011年8月下旬 4年ぶりの受診 BW=78Kg
 BP=122/78 LDL=162 GOT=22 GPT=29 r-GTP=36 LDL=125 TG=200 HDL=40
8カ所の血管エコー所見:(IMT=プラークの厚さ)
腹部大動脈IMT=2.5 mm---A-max
右鎖骨下動脈IMT=2.1mm---S-max(写真2)
右頸動脈分岐部IMT=0.7 mm
左頸動脈分岐部IMT=1.2 mm----C-max
右大腿動脈IMT=0.6 mm
左大腿動脈IMT=0.8 mm----F-max
*脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル=2 (0〜4)

<2011年8月下旬 以降の臨床経過>
・当時のRAP食を指導

2012年2月上旬 この頃は「片頭痛」の発症なし BW=74Kg
2012年8月下旬 継続して「片頭痛」の発症なし BW=73Kg
        右鎖骨下動脈IMT=2.1mm (プラーク退縮なし)
(0.1mmの精度で測定しても、0.01mmレベルではプラークの退縮があるのかも)

2013年7月中旬 就寝中に左背部違和感を自覚するようになり、「片頭痛」の再発あり

2014年 1月中旬 右鎖骨下動脈のプラークが2.66 mm に肥厚(悪化)(写真2)
         エパデールS(900)2P,2x の服用を開始 & 当時のRAP食を指導。

2014年7月下旬 右鎖骨下動脈のプラークが2.23 mm に退縮(写真2)
        「片頭痛」の出現なし

2016年11月下旬 右鎖骨下動脈のプラークが1.43 mm に退縮(写真2)
       その後、プラークの改善・悪化を繰り返し・・・

2023年4月下旬 右鎖骨下動脈のプラークが1.72 mm でも・・片頭痛の出現なし

<臨床経過のまとめ> (図1)

<結果>
「片頭痛」と診断された50歳男性において、R AP食を開始したら、明らかなプラークの退縮は認めなかったが「片頭痛」が治り、プラークが再度進行(肥厚)したら「片頭痛」が再発し、プラークが退縮したら、再発した「片頭痛」が完治状態になった。

<考察>

  1. 45歳以上で「頭痛持ち」「片頭痛持ち」になった場合・・・現代で生活を営む日本人に多い・・・いわゆる・・「筋緊張性頭痛」や「片頭痛」・・それらの症例の多くが

    ・・・実は・・・身体各所の血管エコーが普及していない今日においては・・・多くの 『RCVBS』 症例が・・・「筋緊張性頭痛」や「片頭痛」などと・・と診断されて・・見過ごされているのではないか・・・・との仮説が・・

    多くのプラーク退縮達成症例の・・「頭痛」が・・かなり高率に消失している・・という経験によって・・確信的に・・感じられます。
  2. 国際頭痛分類(第3版:医学書院 2018年)の二次性頭痛の中で、「頭頸部血管障害による頭痛」の分類があり、その中で『可逆性脳血管攣縮症候群(RCVBS)』による頭痛が明記されています。

    典型例では、血管造影では、動脈の収縮と拡張が相互に存在すが、頭痛が発症して1週間はMRA,CTA,カテーテルによる血管造影でも正常のことがある・・と、記載されています。

    つまり、現代ではこの『可逆性脳血管攣縮症候群(RCVBS)』の診断は・・脳血管造影なしでは困難ですが、脳血管造影やMRAでも異常所見を指摘できない場合があるということです。
  3. 私の提案ですが、
    以下の@〜Cを認めれば、『可逆性脳血管攣縮症候群(RCVBS)』と診断してもいいかもしれません。

    @ 45歳以上
    A 慢性に繰り返す「頭痛」
    B 脳MRIでは異常なく、頭痛時の血圧が150以下
    C 身体8箇所の血管エコーにおいて、いずれかの場所にプラーク≧2.0mm以上の部位がある
    D 明らかなプラーク退縮を認めた後に、継続して頭痛が消失する


    『可逆性脳血管攣縮症候群(RCVBS)』の発症メカニズムとは、
    45歳以上になって・・脳血管にある程度のプラークが堆積し・・ある一定以上のプラーク堆積により・・脳血管が・・ストレスと感じ・・脳血管自体が・・・攣縮・・つまり・・収縮・拡張することで・・・『頭痛』が生じるのではないか・・と考えられます。

    このメカニズムは・・「狭心症」・・の発症メカニズムと類似・・と、考えられます。

    同様に、この仮説は・・「片頭痛」症例の方の、将来における心筋梗塞・脳梗塞の発症リスクが・・1.5〜2.3倍も高かった・・というデンマークからの報告(前述)を・・科学的に説明可能です。

    なお、同報告では、「片頭痛」と診断後、特に1年以内における脳梗塞の発症リスクは8.37倍と高く・・・・『片頭痛』 様の頭痛が出現するようになった場合は・・

    可能な限り・・早期の対応(プラーク退縮のための努力)が望まれます。
  4. 「片頭痛」が心筋梗塞・脳梗塞を誘発するのではなく・・「片頭痛」に至る食習慣が・・プラークを肥厚させ・・心筋梗塞・脳梗塞を発症させるチャンスを増加させている・・と、考えられるべきです。

    同様に・・・
    多くの場合・・「睡眠時無呼吸」が脳梗塞を誘発するのではなく・・・「睡眠時無呼吸」に至る食習慣が・・プラークを肥厚させ・・心筋梗塞・脳梗塞を発症させるチャンスを増加させている・・と、考えられます。
     (血管エコー・実例研究 24)) (動脈硬化の未来塾 58))

    同様に・・・
    多くの場合・・「高血圧」が脳梗塞を誘発するのではなく・・・「高血圧」に至る食習慣が・・プラークを肥厚させ・・心筋梗塞・脳梗塞を発症させるチャンスを増加させている
     (動脈硬化の未来塾 13)) (動脈硬化の未来塾 58))
  5. 45歳以上で発症した「筋緊張性頭痛」「片頭痛」は・・非常に多くの症例が・・・「狭脳症」(私の造語)・・・と言えるのではないでしょうか・・そして・・・それは・・広義の『可逆性脳血管攣縮症候群(RCVBS)』・・ではないかと考えます。

    なぜなら・・45歳以上で“頭痛持ち“の方のプラークが退縮すると、「筋緊張性頭痛」と診断を受けた・・ほとんどの方の”頭痛“が消失し・・「片頭痛」の方の頭痛も・・(動脈硬化の未来塾 111))の症例や本症例のごとく・・多くの症例で改善〜治癒いたします。

    『頭痛(頭重感)持ち』の方は、30歳以上のT-max(ヒトのプラークの総量に近似する数値)の検討により・・通常よりも・・明らかに血管プラーク(動脈硬化)の進行が認められています。(動脈硬化の未来塾 58))

<まとめ>
脳MRIで異常がなく、慢性的な「片頭痛」・「筋緊張性頭痛』などと診断されている・

45歳以上の・・いわゆる「頭痛持ち」の方

→薬に頼り続けるのではなく・・・

→まずは8ヶ所の血管エコーを受け・・

→コレステロール低下薬を必要としない・・『プラーク退縮が可能な医療』 を・・

→なるべく早く・・受けられることを・・・・推奨いたします。

****************************

<メモ>
右鎖骨下動脈のプラークの測定に関して・・・・
2007年5月に1.5 mm縦断像(写真1)
2011年8月に 2.1 mm 横断(写真1)
2007年 から 2011年にかけて、急にプラークが増大したのではありません。

右鎖骨下動脈のエコーは、マイクロコンベックスのプローブで、横断面での観察が必須ですが、2007年5月時点では、リニアスキャン用プローブでの縦断面の観察のみでした。 

本例は、下図(図2)のごとく、プラーク堆積が血管の足側に厚く堆積しており、2007年時点でも横断面で観察していれば・・「片頭痛」が生じていましたので・・・・2.0mm程度のプラークが堆積していた可能性を否定できません。

右鎖骨下動脈の血管エコーでは・・プラークの堆積パターンが色々あります(図3のA type, B type,他)。

したがって・・右鎖骨下動脈を観察する場合は、2方向での観察が必要です。

右鎖骨のために、縦断面でのスキャンが可能な範囲に制約(図3の赤線エリア)があるので、マイクロコンベックスのプローブを用いての、横断面での観察が必要となります。(図3)

2023年5月9日 記載
真島消化器クリニック
真島康雄

 


「脳梗塞・心筋梗塞の予防法」目次へ戻る

Dr.真島康雄のバラの診察室

携帯版のご案内

お知らせ

リンクページ