脳梗塞・心筋梗塞の予防法

若い世代の頸動脈プラーク(最大厚)の平均は、心筋梗塞で1.64mm、脳梗塞で1.55mmでした

はじめに

血管エコーで頸動脈のIMT(内膜-中膜肥厚)が明瞭に描出可能となって13年以上も経過した。しかし、臨床の現場では、まだ有効に活用されていないのが現状です。

したがって、脳・心血管イベントの予知・予防が後手に回り、「いつの間にか心筋梗塞・脳梗塞」の事態を招いている理由とも考えられる。

しかし最近、ラクナ脳梗塞、CVD(心血管疾患)の発症リスクは、頸動脈のmax IMT肥厚に伴って、階段状にそのリスクが上昇することが報告された。
Shimoda S, et al. Associations of Carotid Intima‐Media Thickness and Plaque Heterogeneity With the Risks of Stroke Subtypes and Coronary Artery Disease in the Japanese General Population: The Circulatory Risk in Communities Study. J Am Heart Assoc2020 Oct 6; 9(19).

そこで、若い世代の心筋梗塞や脳梗塞を予知・予防する為には、現状の「採血でLDL値を評価した健診」よりも、一次健診としての「頸動脈エコー検査を採用した健診」が期待される。

<目的>
脳・心血管イベントを防ぐ上で非常に重要な検査である頸動脈エコーの所見が有効に活用されるためには、今までほとんど検討がなされてこなかった「脳梗塞や心筋梗塞における若年世代と高齢者での頸動脈プラークの状況の違い」を明らかにしなければならない。

そこで、左右の頸動脈プラークの最大厚(max IMT)=C-maxに関して、若い世代と高齢者の間での相違を検討した。

<対象と方法>
2007年7月から2023年7月28日までに、当院において35歳以上で8カ所の血管エコーを行なった6307例中、105例の心筋梗塞経験者と263例の脳梗塞経験者、および126例の冠動脈ステント留置術を受けた症例を経験した。

今回は、その内の54歳以下で、既に心筋梗塞を発症(25例は2年以内)していた28例、既に脳梗塞を発症(48例は2年以内)していた53例、既に冠動脈ステント留置術(16例は2年以内)を受けていた21症例。
および、
70歳以上で、既に心筋梗塞を発症(19例は4年以内)していた31例、既に脳梗塞を発症(65例は4年以内)していた86例、既に冠動脈ステント留置術(30例は4年以内)を受けていた47症例を対象とした。

なお、C-maxを著者一人で計測し、若年世代と高齢者のC-maxを比較検討した。年齢は、8カ所の血管エコーを行なった初診時の年齢である。

「今回の報告に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」

<結果>

表1のごとく、
・35〜54歳で心筋梗塞になった群のC-maxの平均は1.64±0.61mmであった。
・35〜54歳で脳梗塞になった群のC-maxの平均は1.55±0.97mmであった。

・70歳以上で心筋梗塞になった群のC-maxの平均は2.72±1.42mmであった。
・70歳以上で脳梗塞なった群のC-maxの平均は2.48±1.26mmであった。

・C-maxに関して、35〜54歳の心筋梗塞群は、70歳以上の心筋梗塞群よりも平均で1.1mmも低く、両群間では明らかな有意差(p=0.0004)が認められた。

・C-maxに関して、35〜54歳の脳梗塞群は、70歳以上の脳梗塞群よりも平均で0.93mmも低く、両群間では明らかな有意差(p=0.000004)が認められた。

・冠動脈ステント留置術を受けた群においても、若い世代と高齢者では、C-maxの値に有意差を認めた。
(表2)

・35〜54歳で心筋梗塞になった群と、35〜54歳以下で冠動脈ステント留置術を受けた群のC-max間では、有意差を認めなかった。

<考察>
まだ未発表のデータですが、若い世代の心筋梗塞症例・冠動脈ステント留置術を受けた症例の、食習慣点数(点数が高いほど脂質摂取量が多い:点数が得られた症例のみ)の平均点は、それぞれ>550点であった。
*食習慣点数表は、書籍「脳梗塞・心筋梗塞・高血圧は油が原因」幻冬舎 2018年4月」に掲載。

一方、70歳以上の心筋梗塞症例(点数が得られた27症例)の食習慣点数の平均点は308点であった。
この点数間には、明らかな有意差が認められた。(後日報告)

(備考:70歳以上で脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル≦1の群では、食習慣点数の平均は237点でした。)

すなわち、若い世代で大変活発に、高脂質の食品やアルコールなどを頻回に摂取していたグループは35〜54歳で心筋梗塞となり、

平均よりも高脂質の食品やアルコールを摂取しているが、それほどでもない人のグループは70歳以上の高齢者になって心筋梗塞を発症しているという構図が、食習慣の点数を調査して初めて科学的に明らかとなりました。

このような傾向は、脳梗塞症例でも同様に認められ、高脂質の食品や多量の酒類摂取の継続的な摂取食習慣(健康のために摂取・継続した善意の悪習慣を含めて)が、35〜54歳という早期の心筋梗塞・脳梗塞を来している主な原因であることが想定された。(図1)

35〜54歳で心筋梗塞になった群のC-maxの平均が1.64mmという、比較的危険ではなさそうな値で心筋梗塞になっている事実は、

急速にプラークが堆積する場合は、頸動脈の状況と同じで、冠動脈内径の拡張が間に合わず、冠動脈が早々(5〜10年以内)に閉塞するためと思われる。(図1)

実際、頸動脈IMTが肥厚している群では、あまり肥厚していない群よりも頸動脈内径が拡張しているという報告も認められる。

また、当院のホームページの様々な症例においても、プラークの退縮と共に血管内径が狭くなる(元に戻る)現象が普通に観察される。

・70歳以上で心筋梗塞になる群は、頸動脈プラークが緩やかに肥厚するような場合なので、冠動脈プラークも緩やかに肥厚し、同時に冠動脈内径も緩やかではあるが拡張するので、

結果として、心筋梗塞に至った時点のC-maxは高くなり、心筋梗塞に至る時間も延びて20〜40年程度を要すると考えられる。(図1)

・70歳以上で脳梗塞になる人も、心筋梗塞例と同様の考察が成り立ちます。(図2)

(今回の報告に関連した食習慣点数、LDL、体重、高血圧、糖尿病などとの関連性については、後日報告予定)

<まとめ>

1. 若い世代における脳梗塞・心筋梗塞発症時のC-maxの平均値は1.5〜1.6mm程度であり、一方で高齢者の場合のC-maxの平均値は2.5〜2.7mm程度であるので、若い世代のC-maxによるリスク管理は、高齢者のそれとは異なる判断が求められる。

2. 若い世代のリスク管理としては、頸動脈以外の動脈に危険レベルのプラークが堆積している場合があり、右鎖骨下動脈・腹部大動脈・大腿動脈までチェックする必要がある。
(動脈硬化の未来塾 142) (動脈硬化の未来塾 140)

備考:
図1〜2に酒類や脂質の過剰摂取の継続という、極悪の食習慣と並んで、現状の一般常識では健康に良いと言われているが、その摂取量によっては、本当は非常に危険な食習慣が存在します。
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2023年8月15日記載
真島消化器クリニック
真島康雄

 


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