脳梗塞・心筋梗塞の予防法

突然の心臓死予防の観点から、30〜40代で心筋梗塞になった13症例における検討。

はじめに

急性の心臓死(心臓発作)は、年間7.9万人にも及ぶとされ、大きな社会問題である。
特に40〜50代の症例も多く、その確実な予防策の策定は喫緊の課題である。

しかし、現在はその予防策として決定的なものはなく、課題を抱えたまま、動脈硬化性疾患予防ガイドライオンに従って、コレステロール低下薬でLDLを下げる医療が延々と続けられているが、実際にはプラークが退縮することはない。

このことは、論文上(N Engl J Med 2008; 359:529-533)および実地の臨床の現場でも認識されている。

急性の心臓死を減らすためには、医療機関に通院中と考えられる高齢者を多く含む集団における心筋梗塞症例ではなく、比較的若くして発症した心筋梗塞症例を詳細に検討しなければならない。

今回は、30〜40代で心筋梗塞を発症した13例に関して、事前に心筋梗塞予知・予防が可能であったかどうかを検討した。

<対象と方法>
2007年7月から2023年7月までに、当院において104例の心筋梗塞経験者を診察した。
今回は、その内の49歳以下で心筋梗塞を発症した13例を研究対象とした。
全例に8カ所の血管エコーを行い、家族歴、食習慣などを詳細に問診したデータを基に、この13例が心筋梗塞発症前に8カ所の血管エコーで予知可能であったかどうかを検討した。

「今回の報告に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」

<結果>

*Case1は、動脈硬化の未来塾 141)の症例

S-max=右(左)鎖骨下動脈の最大IMT(プラーク)mm
C-max=左右頸動脈の最大IMT(プラーク)mm
F-max=左右大腿動脈の最大IMT(プラーク)mm
A-max=腹部大動脈〜腸骨動脈の最大IMT(プラーク)mm
T-max=S-max+C-max+F-max+A-max mm (個人の動脈プラークの総量を表す指標)

1)8カ所の血管エコー所見によって脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル=4(0〜4)*と判定された症例は、13例中9例(69.2%)、レベル≧3であった症例は13例中12例(92.3%)、レベル≧2であった症例は13例中の13例(100%)であった。(表1)

なお、脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル判定の基準は、
『循環器臨床 サピア9 「血管エコーパーフェクトガイド-動脈硬化の早期発見」- 頸動脈/右鎖骨下動脈エコー検査:新しい領域 – (中山書店)2010年8月 』に掲載。

2)頸動脈プラーク(max-IMT)が≧2.0mmの症例は5例(38.5%)のみであった。(表1)

3)高血圧の症例が多い傾向を認めるも、高血圧の有無や糖尿病の有無の頻度、LDL値、BMIの値などは一般的なレベル・頻度であった。(表1)

4)13症例中の9例(69.2%)において、動脈硬化関連疾患の家族歴を認め、特に7例(53.8%)においては、両親のいずれかに、60歳以下での脳・心血管イベントが認められた。(表2)

5)食習慣アンケートでは、12例中の11例(91.7%)において、食習慣点数が400点以上であった。

なお、食習慣点数表は、書籍「脳梗塞・心筋梗塞・高血圧は油が原因」幻冬舎 2018年4月」に掲載。

6)食の好みの調査では、13例中の10例(76.9%)において、“甘いもの”、“肉”、“揚げ物”のいずれか一つが“大好き”な食品だった。 “甘いもの“とは、主に洋菓子類のこと。

7)一般的な若者の集団よりも、喫煙歴を有する症例が多い傾向にあった。(表3)
1日に2回以上がパン食である症例が6例と約半数に認められた。(表3)
1日に喫煙本数が20本以上の症例は7例(53.8%)、40本以上の喫煙をしていた症例は5例(38.4%)であったが、5例中の5例共に“揚げ物”“肉”いずれかを「大好き」であった。(表3)

<考察>
●今回の検討で、少なくとも若年者の心筋梗塞は、事前に8カ所の血管エコーを受けさえすれば、100%近くが予知できることが示された。さらに当院が推奨するRAP食「Medical diet for Regression of Arterial Plaque」(動脈プラーク退縮のための食事療法)を励行し、適切な投薬などの医療を受けていれば、予防も可能であっただろうと思われた。

●ただし、頸動脈エコーでさえ、一次健診として普及していないのが現状である。

また、日本一厳しいはずのパイロットの航空身体検査の基準のマニュアルでも、コレステロール値を重要視し、頸動脈エコーは必須の検査とされていない(聴診器で頸動脈の血管雑音の有無を聴取することで可とされている)。

しかしながら、
たとえ頸動脈エコーの健診が航空身体検査に採用されても、心筋梗塞の予知は38.5%程度であろうと考えられる。

各国の航空身体検査は厳しいはずですが、周知の事実として、操縦士が飛行中に心筋梗塞を発症した事例は珍しくない。

この8カ所の血管エコー所見による脳・心血管イベントのリスク判定法は、まだ世界的に普及していないので、一人操縦のヘリコプターや小型飛行機などは、日本でも海外でも、その安全性には疑念が生じる。

<まとめ>
1)13例中12例(92.3%)にリスクレベル3以上のプラークを認め、13例中13例(100%)にリスクレベル≧2のプラークを認めた。

もし、発症前にこの検査を受けていれば、100%の予知が可能であっただろうと考えられた。

さらに、RAP食で食習慣の改善を行い、適切な医療を受けていれば、100%近くで予防が可能であっただろうと考えられた。

2)12例中の11例(91.7%)において、食習慣点数が400点以上であった。

3)13例中の10例(76.9%)が、甘いもの、肉、揚げ物のいずれか一つが“大好き”な食品だった。

4)13例中の9例(69.2%)に、何らかの動脈硬化疾患が家族歴に認められた。
7例(53.8%)では、両親のどちらかが、40〜60代の比較的若い世代で心筋梗塞や脳梗塞を発症していた。

5)BMI、LDL、高血圧、糖尿病の有無などは、この13例に特徴的な所見とは言い難く、現在行われている通常の健診では、精度の高い心筋梗塞・脳梗塞のリスク判定は不可能と思われ、発想の転換が望まれる。

6)頸動脈エコーでプラーク(max-IMT)が2.0mm以上であった症例が5例(38.5%)であり、頸動脈エコーだけでは心筋梗塞の発症を高確率で予知・予防するのは困難である。

おわりに
以上の点を踏まえ、8カ所の血管エコーによる脳梗塞・心筋梗塞のリスク判定法が広く普及すれば、心筋梗塞・脳梗塞が激減し、社会的な人的損失が減り、医療を含めた社会保障費の大幅な削減が期待できる。

2023年7月19日
真島消化器クリニック
真島康雄


 

<付録> 突然死を減らそう
コロナ禍も随分と落ち着きましたので、昔から存在する身近な現実を直視しましょう

1年間に心原性心肺停止は何人発生?・・多くは急性の心筋梗塞ですが

心筋梗塞発症時が自宅なら、家族や本人が救急車を手配、会社なら同僚が、施設内なら施設の職員が救急車出動依頼をされるでしょう。
上の図1は、あくまでも一般市民が目撃し、救急車手配をして出動した事例です。それでも、1年間に23,556人の心原性突然死。1日に64.5人、1時間に2.69人、22分に一人が突然死しています。

一般に、自分や家族が病院へ連絡した症例なども入れると、年間に約7.9万人が心臓突然死で亡くなっていると言われています。ですから、約7分に1人のペースで心臓突然死(心臓発作:多くは心筋梗塞)が発生していることになります。

この死者数は、わずか1年で、コロナの3年3ヶ月間の死者数に匹敵します。(表5)

なお、突然死とは・・・突然死に詳しい「東京都監察医務院」のホームページを拝借して説明いたします。

東京都監察医務院のホームページに、「心臓死の予防は可能だろうか?」という記述があります。

結論は、突然死の圧倒的多数の症例が、健診や人間ドックで潜在性心疾患を事前に発見できなかった症例であり、心臓突然死の予防は不可能であっただろう・・と記載されています。(図3)

Q:本当に、突然の心臓死の予防は不可能でしょうか? 
A:突然の、心筋梗塞による心臓死の予防は可能です。

なぜ可能かというと、2008年9月に発表した論文
『脳梗塞、心筋梗塞疾患の予知における右鎖骨下動脈および頸動脈の内膜中膜肥厚計測の有用性』
真島 康雄:超音波医学 2008年 35巻 5号 p.545-552 発行日:2008年 公開日:2008/09/29

2008年9月に発表した論文で、脳・心血管イベントになっていた人の頸動脈エコー&右鎖骨下動脈エコーを行うと、プラーク肥厚のレベルが3以上である人が25例中の21例(84.0%)にも及び、レベルが2以上なら25例中の23例(92%)であった。(図4)

つまり、LDL値を過度に心配するよりも、右鎖骨下動脈と頸動脈エコーを定期的に受けていれば、脳・心血管イベントで倒れる予定の92%の人を検出可能ということを意味しています。

つまり、2008年の時点ですでに、心筋梗塞の予防策は、技術的には存在していたことになります。

2023年7月19日記載
真島消化器クリニック
真島康雄


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