脳梗塞・心筋梗塞の予防法

総頸動脈IMT値の意義について ―頸動脈分岐部でのプラーク肥厚が軽度の場合

2009年出版の書籍「脳梗塞・心筋梗塞は予知できる」に、8カ所の血管エコー検査の方法を掲載し、2018年出版の書籍では、脳梗塞・心筋梗塞リスクレベルの具体的な評価方法を掲載いたしました。リスクレベルは0〜4までの5段階評価となっています。

しかし、頸動脈エコーしか受けられない現状においては・・・、

例えば、頸動脈IMT(頸動脈分岐部、内頸動脈、外頸動脈、総頸動脈)の値がいずれも≦1.40mmである方は、

危険な領域である、総頸動脈max-IMT=1.20〜1.40mm であっても、当院のリスク評価では「C-max=1.40mm」 と表現されますから、「リスクレベル=1」・・と、誤解されるかもしれません。

そこで、今回は総頸動脈IMT値の意義について、詳細な検討を行った。

「今回の研究報告に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」

<対象と方法>
2008年から2023年2月16日までに頸動脈エコーを行い、総頸動脈max-IMT を記録していた脳・心血管イベント未発症例(30〜89歳)の2829例(男性1297例、女性1532例)と、同期間中の脳梗塞242例(男性167例、女性75例)および心筋梗塞100例(男性86例、女性14例)を対象とした。
なお、当院での総頸動脈IMTは、総頸動脈の最も肥厚している部位の測定値(max-IMT)とした。

<結果>
1)脳・心血管イベント未発症例において、
総頸動脈max-IMT(mm)の平均値(男性1297例・女性1532例)は
30代の男性=0.50 ±0.23 mm 女性=0.46 ±0.12 mm
40代の男性=0.66 ±0.40 mm 女性=0.54 ±0.22 mm
50代の男性=0.87 ±0.56 mm 女性=0.65 ±0.34 mm
60代の男性=0.97 ±0.56 mm 女性=0.78 ±0.41 mm
70代の男性=1.15 ±0.62 mm 女性=0.85 ±0.38 mm
80代の男性=1.26 ±0.55 mm 女性=1.05 ±0.50 mm であった。(表1)

2)脳梗塞症例(242例)において
総頸動脈max-IMT(mm) の平均値(男性167例・女性75例)は
30代の男性=0.61 ±0.15 mm 女性=1.03 ±0.94 mm
40代の男性=0.82 ±0.46 mm 女性=0.76 ±0.66 mm
50代の男性=1.27 ±0.91 mm 女性=1.15 ±0.82 mm
60代の男性=1.15 ±0.57 mm 女性=0.96 ±0.55 mm
70代の男性=1.24 ±0.70 mm 女性=1.16 ±0.61 mm
80代の男性=1.23 ±0.77 mm 女性=0.93 ±0.16 mm であった。(表2)

3)心筋梗塞症例(100例)において
総頸動脈max-IMT(mm) の平均値(男性167例・女性75例)は
30代の男性=症例なし 女性=症例なし
40代の男性=0.82 ±0.21 mm 女性=0.52 ±0.08 mm
50代の男性=1.03 ±0.53 mm 女性=0.61 mm
60代の男性=1.19 ±0.50 mm 女性=0.87 ±0.14 mm
70代の男性=1.15 ±0.42 mm 女性=1.01 ±0.37 mm
80代の男性=1.43 ±0.35 mm 女性=0.88 ±0.23 mm であった。(表3)

<考察>
1. 総頸動脈max-IMTの値で、脳梗塞・心筋梗塞のリスク評価をしてはいけない。 

例えば、男性の場合、脳・心血管イベント歴(―)の60代の集団で、総頸動脈max-IMTの平均が0.97mm です。一方で、男性の脳梗塞症例の60代の集団の総頸動脈 max-IMTは1.15mmです。(表4)

このデータからは、ある個人の実際の総頸動脈max-IMTが0.97mmである場合、一見安全と思われがちですが・・・実はそうではありません。

では・・・統計のカラクリを説明いたします。

図1をご覧ください

・60代の男性の場合、脳梗塞症例の“多くの人達”の総頸動脈max-IMTは0.51〜1.85 mmなのです。

・一方で、60代の男性の場合、非イベント症例の“多くの人達”の総頸動脈max-IMTは0.41〜1.53 mmなのです。

ですから、健診で総頸動脈max=IMT=0.97 であっても、決して安心できません。

2. 一般的に言えば・・・プラークの進行を富士山の成長に例えるなら・・・山頂の高さの進行が急で・・裾野の部分の進行は緩徐・・・なのです。

しかし、日本全国の地殻変動(全身の動脈硬化の動向)を観察するなら・・全国各地の主だった山の成長も観察されなければ・・・科学的で信頼できるデータにはなりません。

3. 総頸動脈max-IMTが1.20mm以上の場合は・・頸動脈分岐部や内頸・外頸動脈のIMT(プラーク)が≦1.40mm であっても・・・要注意です。(以下の表示)

なぜなら、
a) 頸動脈分岐部・内頸動脈・外頸動脈IMT が、いずれも≦1.40 mmの場合において、
総頸動脈max-IMT が1.20〜1.40 mmである場合でも・・・8カ所の血管エコーを受ければ、68.6%(24症例/35症例)の確率で脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル=2 であり、35例中18例(51.4%)はリスクレベル=3 であった。(表5)

b) 頸動脈分岐部・内頸動脈・外頸動脈IMT が、いずれも≦1.40 mmの場合において、
総頸動脈IMT が≧1.41 mmである場合には、8カ所の血管エコーを受ければ、83.3%(6例中の5例)の確率で脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル=2 であり、6例中4例(66.6%)はリスクレベル=3 であった。(表5)

つまり、総頸動脈IMT が≧1.20 mmである場合には、脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル=2以上の可能性が高く、リスクレベル=2以上の症例と同様の治療が必要と思われる。

4. 稀には、総頸動脈のみに有意なプラークの堆積を認めた症例(8カ所の血管エコーを施行)も存在する(動脈硬化の未来塾 60))。その症例は、左右共に総頸動脈max-IMT=1.38 であり、他部位にはプラークの肥厚がなく、脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル=1 と、評価されますが、すでに脳梗塞を発症していました。(この症例が、仮に総頸動脈max-IMT=1.20〜1.30 mmならばレベル=0と評価されます。)
 
したがって、総頸動脈IMT が≧1.20 mmの場合は、他部位にプラークの肥厚がなくてもプラーク治療の対象であり、厳重にフォローする必要がある。

<結語>
1. 総頸動脈のmax-IMTやmean-IMTだけで脳・心血管イベントのリスク判定をしてはいけない。 

2. 頸動脈エコーのみによる動脈硬化の判定において・・たとえ、頸動脈分岐部周辺のプラークや、総頸動脈のプラークが低値であっても・・・安心するのは極めて危険である。 

3. 総頸動脈max-IMT≧1.20 mmの場合は、8カ所の血管エコー検査の有無にかかわらず、脳梗塞・心筋梗塞リスクレベルが2以上の症例に準じて、プラーク治療の対象にされるべきである。

<つぶやき>
脳や心臓、脊柱管周囲、腎動脈・・全身すべての栄養血管は動脈です。その動脈内の脂肪による狭窄状況を把握し、血管内の脂肪(プラーク)を減らしたい・・・という願望があれば・・・頸動脈だけの検査(サンプル調査)で済ませていいのでしょうか? 

脳梗塞の大多数は、頸動脈プラークがちぎれて飛んで、脳梗塞になるのではありません。
脳動脈自体がプラークで狭くなって・・脳梗塞になるのです。

・・・そもそも・・血管プラーク病で倒れた場合・・

その根本原因の多くは・・日頃の飲・食習慣ですので・・ほとんどの場合・・人災です。

当院のホームページの画像&データをご覧いただければ・・人災か天災かの判定は明らかです。

何を伝えたいかというと・・・不幸や落命の原因でもある人災を・・未然に防ぐためには・・現在の標準的な医学では力不足です。

・頸動脈エコー検査だけで・・・安心して・・・・・いいのでしょうか・・・?
(動脈硬化の未来塾 31)) (血管エコー・実例研究 6)) 

・脳MRIの検査だけで・・・安心して・・・・・いいのでしょうか・・・?
(動脈硬化の未来塾 67)) (血管エコー・実例研究 8)) (血管エコー・実例研究 9)) (血管エコー・実例研究 10)) (血管エコー・実例研究 11)) 

・LDLを薬で低下させる治療&採血だけで・・・安心して・・・・いいのでしょうか?
(動脈硬化の未来塾 68)) (動脈硬化の未来塾 52)) (動脈硬化の未来塾 130)) 

2023年3月7日 記載
真島消化器クリニック
真島康雄

 


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