脳梗塞・心筋梗塞の予防法

5年間で急速に進行した動脈プラークを、RAP食にて退縮治療し得た1例。

日本成人におけるプラークの自然経過に関しては、明瞭な画像での報告例が少なく、動脈プラーク肥厚のスピードに関してはほとんど知られていない。

また、個人のプラークの進行速度も一定ではなく、食習慣や生活環境の変化で大きく変化することが・・しばしば経験される。

今回、5年間の血管エコーのブランク後に、左大腿動脈に急速なプラーク肥厚を認め、その後の2年間のRAP 食による治療によって、プラークを退縮させることができた1例を経験したので報告します。

「今回の症例呈示に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」

『症例提示』

症例 51歳 男性 (血管エコーで、プラークの急速増悪を認めた時点:2020年3月時点)
症状:特になし

<臨床経過>
以下の図1参照

<現病歴>
2007年の健診にて LDL=118 TG=46 HDL=81
2021年11月初旬 健診にて LDL=146 TG=81 HDL=70 高脂血症を指摘され

---血管エコーなどの臨床経過の詳細---
2012年8月中旬 当院初診 LDL=126 TG=78 HDL=68 (43歳 BMI=20.6)
食習慣:甘いもの:好き、肉:大好き、野菜:普通、魚:好きではない、揚げ物:好き
食習慣点数=288点

8カ所血管エコー
腹部大動脈IMT =0.9 mm (A-max)
右鎖骨下動脈IMT=1.0 mm (S-max)
右頸動脈分岐部〜内・外頸動脈IMT =1.1mm (C-max)
左頸動脈分岐部〜内・外頸動脈IMT=0.9mm
右総頸動脈IMT=0.6 mm 左総頸動脈IMT=0.8 mm
右大腿動脈IMT=0.9 mm (F-max)
左大腿動脈IMT=0.6 mm

*:初診時は・・脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル=0(0〜4)です。

2015年6月下旬(2回目受診)6カ所血管エコー
腹部大動脈IMT =0.93 mm
右鎖骨下動脈IMT=0.84 mm
右頸動脈分岐部〜内・外頸動脈IMT =1.08mm
左頸動脈分岐部〜内・外頸動脈IMT=1.46mm 悪化
右大腿動脈IMT=0.92 mm
左大腿動脈IMT=0.82 mm

治療)当時のRAP食をゆるく指導(RAP食の概略を説明)

2020年3月下旬(3回目受診)6カ所血管エコー
腹部大動脈IMT =1.36 mm
右鎖骨下動脈IMT=1.12 mm
右頸動脈分岐部〜内・外頸動脈IMT =1.59mm 悪化
左頸動脈分岐部〜内・外頸動脈IMT=1.48mm
右大腿動脈IMT=2.04 mm 悪化
左大腿動脈IMT=2.39mm 悪化

<初診時からの各動脈のプラーク:IMTの推移 (mm)>

部位 2012/8
中旬(初診)
2015/6
下旬
2020/3
下旬
2020/9
下旬
2021/3
下旬
2021/10
上旬
2022/3
中旬
左大腿
動脈
0.6mm 0.82mm 2.39mm 2.34mm 2.32mm 2.15mm 1.96mm
右内頸
動脈
1.1 1.08 1.59 1.43 1.18 1.03 1.03
右腿
動脈
0.9 0.92 2.04 1.75 1.58 1.28 1.28

*:左大腿動脈のプラーク退縮は、2021年3月以降の食事指導(進化したRAP食)が功を奏しています。

<治療>2020年3月下旬から・・・当時のRAP食を指導&EPA製剤1800mg/d+ラックビー微粒N,2.0g,2x-開始

<右内頸動脈のプラークの経過を供覧>



<右大腿動脈のプラークの経過を供覧>



<結果>

・血管エコーのブランク5年間で
1. 左大腿動脈IMT(プラーク)が0.82 mm→2.39 mmへと急速に肥厚した。
2. 右内頸動脈のプラークも1.08 mm→1.59 mmへ肥厚した
3. 右大腿動脈のプラークも0.92 mm→2.04 mmへ肥厚した

・RAP食+EPA製剤+ビフィズス菌製剤の2年間の治療によって
4. 左大腿動脈IMT(プラーク)が2.39 mm→1.96 mmへと退縮した。
5. 同様に、右内頸動脈のプラークも1.59 mm→1.03mmへ退縮した
6. 同様に、右大腿動脈のプラークも2.04 mm→1.24 mmへ退縮した

<考察>
1)悪化の最大の原因は、当院初診から3年目(2回目の診察)で、本人が思ったほどのプラーク悪化ではなかったために・・諸々の油断が生じ、「食習慣の大切さ」の意識が薄れてしまった事。

2)左大腿動脈のみが、2021年3月時点まで、退縮が遅延状態でした。 その後、プラーク退縮へ向かったのは、2021年3月来院時以降の当院のRAP食の指導が進化したためと思われます。
進化したRAP食の内容に関する記載は→(血管エコー実例・研究 29)
2021年以降にプラーク退縮スピードがアップした実例→動脈硬化の未来塾 128) 動脈硬化の未来塾 129)

3)大腿動脈にプラークが急速に堆積したにも関わらず、右内頸動脈のプラークが1.59mmと、危険レベルではないことに注目すべきです。
通常の頸動脈エコーでは「年相応よりやや進行」の判断が下されます。

つまり、頸動脈プラークのみ観察していては、「危険な状態へ移行中」という真実を見過ごすことになります。

4)プラークが溜まっていない人の血管エコー間隔は?・・今回の症例から・・5年はNGです
私の経験からの私見ですが、50歳以上の場合、男性2年間、女性3年間 でしょう。
動脈硬化の未来塾 22) 動脈硬化の未来塾 27) は実例の紹介です。

5)大腿動脈や腹部大動脈にプラークが多く堆積している場合も、脳・心血管イベントリスクが高い(脳梗塞・心筋梗塞などになりやすい)ことは周知の事実ですから、

大腿動脈プラークも頸動脈プラーク同様に、イベントリスク評価が可能であるとの意識改革が必要で、健診のあり方での改革が必要。 

6)プラークが改善傾向〜改善した2年間、LDLは170以上であり、LDLがプラークとなって堆積するという仮説は、今回の症例でも否定的です。

LDLがプラークの原因であるという話は、全くのフィクションとしか思えません。 LDL 高値の体質の方・・ご安心ください。逆にLDLが正常で・・健診でOKだった方・・・真に受けてはいけません。 

<まとめ>
今回の症例では、頸動脈プラークではなく、大腿動脈プラークのみが急速に肥厚していた。

多くの血管を観察する“8カ所の血管エコー”が普及しなければ、脳梗塞・心筋梗塞0の時代の到来は不可能と思われる。

健康寿命を伸ばすための最も科学的な・実効性のある対策と思われる「8カ所の血管エコー」& 「進化したRAP食」が、遠くない将来、標準医療になることが切望される。

<つぶやき>
人間ドックって、いったい何なのでしょう・・高額な検査を自費で受けながら・・・結果を当院へ持参されますが・・多くは活用できない代物です。 

オプションでは頸動脈エコーも受けることが可能になりました・・そのオプションに・・左右の大腿動脈エコー・腹部大動脈エコー・右鎖骨下動脈エコーの3部位を是非お願いしてください。

この部位を、技術的にエコー検査できない病院は・・頸動脈エコーの結果も信頼できません。

ただし、料金は「頸動脈エコーの料金」x 3倍・・を・・追加で支払う必要があるでしょう。

このような要求を「健康サービスの賢い消費者」として・・多くの病院で要求していただくことで、複数ヶ所の血管エコーにも、保険点数が追加で認められる未来が到来するかもしれません。

・・・過去も・・現在も・・未来も・・現在の医療保険制度では・・「血管エコーを・・何ヶ所も行なっても・・1カ所の血管エコー料金しか請求できない」など・・・慈善事業でない限り・・・高度の技術も要する・・“8ヶ所の血管エコー”は・・大きな病院ほど・・行わないでしょう・・・

<重要なお知らせ>
・とても気になることが・・・久しぶりに来院された方で・・ホームページの「動脈硬化の未来塾」のNew の所しか閲覧していない人がいました。やはり・・・プラークは悪化していました。
 必ずホームページの「お知らせ」欄をチェックしてください。

プラークを治すRAP食に関する新情報は・・・「血管エコー実例・研究・・」-29)脳梗塞・心筋梗塞にならない食べ方・・(RAP食)・・・血管エコー実例・研究 29)・・の最後に追記で掲載することにしています。

RAP食に関する新情報のバージョンアップは・・・「お知らせ」欄で案内しています。

RAP食は3〜4ヶ月単位で進化を続けています・・なので・・・RAP食の新情報(バージョンアップ)をチェックしなければ・・プラークの改善が・・悪化に転じる場合も想定されますので・・くれぐれも・・ご注意ください。

レオナルド・ダ・ビンチの言葉
『ちっぽけな確実さは大きな嘘に勝る。』

2022年7月5日記載
真島消化器クリニック
真島康雄

 


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