脳梗塞・心筋梗塞の予防法

難治例のプラークが、2020年末頃から急速に退縮し、RAP食の進化を物語る1例。

<はじめに>
RAP 食でプラークが改善するという事実があることは証明できましたし、年々RAP食の進化で改善率は向上しています。
しかし、RAP食でも悪化する例や改善に難渋する症例も存在するのは事実です。

今回、プラーク治療の難治例と考えて、経過を追っていた症例が、2020年11月頃から急速にプラークが退縮しだした症例を経験しました。

そこで、RAP 食の経年的な進化の証として、この症例を例に挙げて解説いたします。

「今回の症例呈示に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」

『症例提示』
症例 46歳 男性 脳梗塞後
まず、図1は症例のサマリーを先に供覧いただきます。

本例においては、3カ所のプラークを経時的に測定しています(写真1〜8)。

<現病歴>
22014年10月頃  家族から、睡眠時無呼吸(SAS)の指摘あり
2015年4月中旬 飲酒後にふらつき(+++)体の動き不良→MRIで脳梗塞と診断
        LDL=217 TG=157 HDL 45 血小板=31.1万 尿酸=8.3
1)リバロ(2)1 開始--(コレステロール低下剤:スタチン剤)
2)プラビックス(75)1 開始--(血液サラサラ薬)
3)フェブリク(20)1開始--(尿酸低下薬)

2015年8月上旬 当院初診

食習慣点数=241点 
食の好み:揚げ物:好き、甘いもの:嫌い、魚:好き、肉:好き、野菜:普通。
コンビニ弁当よく食べていた。週に3-4回はロールパンにマーガリンつけて食べていた。
20歳から46歳までタバコ20〜30本/日---(脳梗塞後禁煙)
飲酒歴:脳梗塞発症まで---ビール350cc+日本酒1合/日程度
症状:“右手・右足の動きが鈍く、力が入りにくい”

<8カ所の血管エコー>
腹部大動脈IMT =2.88 mm(A-max)
右鎖骨下動脈IMT =0.76 mm(S-max)
右頸動脈分岐部〜内・外頸動脈IMT=1.53mm
左頸動脈分岐部〜内・外頸動脈IMT=1.74mm(C-max)(写真1〜8)
右総頸動脈IMT=0.41mm 左総頸動脈IMT=0.36mm
右大腿動脈IMT=2.56 mm(F-max)(写真1〜8)
左大腿動脈IMT=2.51mm(写真1〜8)
******脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル=3(0〜4)****** T-max=7.94 mm

<治療>
・当時のRAP 食で指導
・追加で
1. ラックビー微粒N,2g,2x….開始
2. 服用中のリバロ(2)1…中止。
(LDL上昇のため、担当医の指導で2015年10月:リバロ(1)1T,1xで再開)
2016年6月:プラーク悪化にて、リバロ(1)1T,1x 中止
3)2016年6月:EPA製剤1800mg,2x.追加で開始
 --------その他の服薬や、服薬の経過などは図1を参照。--------

<結果>
RAP 食の開始から1年間はプラークが悪化したが、スタチンを中止いただいてから徐々にプラークは退縮。しかし退縮スピードは遅く、4年後には初診時のレベルまでプラークが退縮したものの、5年後までは目立った退縮を認めませんでした。

初診時以降のリアルな血管エコーデータを供覧します。

初診から3ヶ月後。プラーク退縮を期待するも、結果は逆のプラーク悪化。

2016年6月中旬:プラークが悪化するので、担当医(脳神経外科専門病院)にお願いして、スタチン剤(リバロ)を中止しEPA製剤の開始(図1)をお願いし、了解いただく。

スタチン中止後、改善が良好でしたが、次第に改善のスピードが鈍化。何がブレーキに?

何が改善のためのアクセルか? 何が改善に対するブレーキか? 試行・研究中。

2019年5月(RAP食開始から4年後)、3カ所中2ヶ所が初診時よりも退縮し、2019年11月に、やっと3ヶ所ともに初診時よりもプラークが退縮した状態までに。

2020年10月 3ヶ所共にプラークが悪化し2021年度版のRAP食の母体となる様々なアドバイスを行う。

2021年10月下旬、進化したRAP食のおかげで、3ヶ所共にプラーク退縮が顕著に。

<考察>
1)RAP食でプラークが悪化することは珍しく、何らかの強いブレーキが働いていると考え、かかりつけの脳外科専門病院の担当医にスタチン剤off & EPA製剤の開始をお願いした。(図1)動脈硬化の未来塾 52) その後、LDLは200以上に上昇するも、プラークは徐々に改善傾向に転じた。(図1)
2)本例の、スタチン(リバロ)中止後の血管プラークの経過を以下の図で供覧(図2)。

最近1年間のプラークの退縮スピードが顕著ですが、1日の脂質摂取量は以前と比べてほぼ同じです。

「摂取した脂質量」という因子だけではなく、プラークの増減に大きく関与する複数の因子が存在していたことを物語っています。

3)1日の脂質摂取量は1/3程度に減らしたのに、プラークが悪化した代表例の紹介(図3)。


動脈硬化の未来塾 122)の症例です。例えばですが・・週に3−4回焼肉を食べても、1日の脂質摂取量を80gに増やしても、長年の経験上・・おそらく、こんなに急速にプラークは堆積しないと考えられます(上図)。

つまり、論理的に考察すると・・・365日・・24時間・・マクロファージは・・物理的に・生理的に血管壁に蓄積する膨大な量のプラーク(微粒子の脂肪の集合体:LDLではない)を貪食し続けていることを物語っています。

何らかの原因で・・マクロファージのプラーク貪食が滞ると・・極端なスピードでプラークが溜まりだすのでしょう・・つまり・・血管壁に脂肪がたまるのは・・万物の法則から、避けられないので・・その打開策として、万物の創造主からマクロファージに“血管プラーク掃除の使命”が与えられているものと考えられます。

最近、オプジーボの効果を高める可能性がある化合物(ミトコンドリアを活性化する遺伝子を刺激する化合物「EnPGC1」)を京都大学のグループが開発したと発表しています。

オプジーボが効かない場合の原因として、がんを攻撃する免疫細胞のエネルギーを作るミトコンドリアの不足が考えられているからです。

免疫細胞であるマクロファージのミトコンドリアに対して・・スタチンが毒となっている可能性を指摘する報告があります。( Okuyama H, Langsjoen PH, Hamazaki T, Ogushi Y, Hama R, Kobayashi T, Uchino H. Statins stimulate atherosclerosis and heart failure: pharmacological mechanisms. Expert Rev Clin Pharmacol 2015; 8(2):189-99 )

なお、免疫細胞は腸内細菌叢の善玉細菌たちに操られていますから・・・腸内環境を破壊するような・・誰も予想できないような類の食品で、健康に良いと信じられている品など・・・頻回に摂取すると・・プラーク悪化の大きな原因にもなり得ます(動脈硬化の未来塾 122) )。--図3

4)46歳で脳梗塞を発症した原因はLDL高値ではなく「タバコの喫煙+飲酒&揚げ物好き&週に3〜4回のマーガリンをつけてのロールパン摂取」が真の原因と思われた。

<まとめ>
1)LDLとプラークの動向から、スタチン剤はLDLを低下させるが、プラーク改善にとっては無効またはプラーク改善を阻止する薬品である可能性が強く疑われた。

2)2020年秋以降の2021年度版のRAP食を励行したら、5年間もプラーク改善が不良であった症例が、食事内容は同じにも関わらず、プラークが顕著に退縮しだした。

3)RAP食を行う場合は、少なくとも血管プラークの経時的な観察が必要。

<つぶやき>
進化したRAP食(2021年度版)は、新たなステージへ進行中です(血管エコー実例・研究 29)。(Webに掲載するRAP 食の内容は、当院での6〜8ヶ月間の臨床経験を踏まえた上で・・検証を重ねた後に掲載しています)
くれぐれも過去のRAP 食(単なる脂質制限)の理解だけで・・突き進まないようにしましょう。

今回の症例が、LDL高値で恐怖を抱いている方々、脳梗塞や心筋梗塞の再発を心配して怯えている方々の心の救いになれば幸いです。

2021年11月17日 記載
真島消化器クリニック
真島康雄

 


「脳梗塞・心筋梗塞の予防法」目次へ戻る

Dr.真島康雄のバラの診察室

携帯版のご案内

お知らせ

リンクページ