久留米市野中町の肝臓内科・血管内科・消化器内科・乳腺内科です。電話:0942-33-5006
はじめに:
現在まで、果物摂取とプラーク堆積(肥厚)との因果関係は不明でした。それは、果物よりもプラーク肥厚を左右する食品があまりにも多岐にわたって存在していたからです。しかも、果物摂取量を細かく問診していなかったからです。
その為に、2013年〜2015年頃は、“みかん”や“干し柿“の多食をプラーク肥厚の原因だと考えた症例もありました。でも、これらの症例におけるプラーク肥厚の原因を2020年12月時点で再考察すると、“みかん”や“干し柿“が原因ではなく、これらの嫌疑は間違いであったと認識可能です。
また、平均的な果物摂取量ではプラーク肥厚の原因にはならないことを実感できる症例が数多く経験されるに至り、2018年8月にはRAP食での果物摂取制限を撤廃しています(バナナのみは制限中)。
今回は、果物の多食がプラーク改善効果に対して、むしろプラスに働いた可能性がある症例を経験したので報告します。
「今回の症例呈示に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」
症例提示:
『果物を多食していたプラーク退縮著効例. 85歳 女性』
写真1
『家族歴』
父:ガンで他界(82歳)
母:胃ガンで他界(75歳)
夫:心筋梗塞で他界(82歳):アルコール大好き;肉や油物が大好き
『現病歴:食習慣、病歴、他』
<初診時の血管エコー>
8カ所の血管エコー(血管エコー実例・研究 1))
腹部大動脈IMT=3.99 mm((A-max)
腹部大動脈IMT=2.95 mm
右鎖骨下動脈=1.39 mm(S-max)
右頸動脈分岐部IMT=2.15 mm (C-max)
左頸動脈分岐部IMT=1.89 mm
右総頸動脈IMT=0.63 mm
左総頸動脈IMT=0.73 mm
右大腿動脈IMT=2.58 mm
左大腿動脈IMT=3.27 mm(F-max)
左大腿動脈IMT=2.48 mm
<初診時の採血データ:脳梗塞リスクレベル、他>
TC=254 LDL=151 TG=99 HDL=85 Alb=4.4g 血小板23.8万 (夕前)血糖=83 Cr=0.58 WBC=6100
**脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル=4(0〜4)* T-max=10.80 mm **(備考:極めて危険なレベル)
脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル、T-maxに関しては (動脈硬化の未来塾 31))を参照。
<初診時までの服用薬>なし
『治療』
1. イコサペント酸エチル粒状カプセル(900)2,2x 開始
2. ラックビー微粒N,2g,2x−開始
3. RAP食開始
『結果』
<4ヶ月後のプラークの経過>
4ヶ月でプラーク退縮: IMTが0.55 mm減少。非常に良好なプラーク改善を認めた。(写真)
初診 2020年8月初旬 | 2020年12月初旬 | |
腹部大動脈:前壁max-IMT (mm) | 3.99 | |
腹部大動脈:後壁IMT (mm) | 2.95 → | 2.69 0.26 mm退縮 |
右頸動脈分岐部IMT (mm) | 2.15 → | 2.14 0.01 mm |
左頸動脈分岐部IMT (mm) | 1.89 → | 1.79 0.10 mm退縮 |
右総頚動脈IMT (mm) | 0.61 | |
左総頚動脈IMT (mm) | 0.73 | |
右鎖骨窩動脈IMT (mm) | 1.39 | |
右大腿動脈IMT (mm) | 2.58 → | 2.08(写真) 0.50 mm退縮 |
左大腿動脈IMT (mm) | 3.27 → | 2.72(写真) 0.55 mm 退縮 |
左大腿動脈(下位)IMT (mm) | 2.48 → | 2.32 0.16 mm 退縮 |
<4ヶ月後の症状の変化>
初診から2ヶ月目の10月に、軽い胸の圧迫感が1回あり(圧迫感&持続時間は半減)。
『考察』
◯:もともと痩せ型でしたので、RAP食で痩せすぎない様に配慮し、2020年12月の再診時には「痩せない様に、果物は毎日食べる様にしてくださいね」と、お話ししました。
すると「体重は300g程度減っただけです。果物は毎日(リンゴ2個、小ミカン10個程度、キウイ1個)毎日食べています」との驚きの発言がありました。柿の時期は、柿1個食べると、りんご1個を減らしていたそうです。
初診時には、果物摂取に関しては、「普通に毎日摂取してください。」と、説明していましたが、上記の果物の摂取量が本人にとっては普通の摂取量だったのです。
さらに尋ねると、5年前までの3〜4年間、家族の仕事の関係でタイに住んでいて、果物が美味しいので帰国しても、現在と同じく毎日(りんご2個、小みかん10個程度、キウイを1個)程度は食べていたとのこと(初診時も)。つまり、この9年間は果物の多食状態にありました。
初診時にこの事実を知っていれば、果物摂取を半分に減らす様に指導していたに違いありません。結果的に、知らなくて幸いでした。
なぜなら、初診時に脳梗塞リスクレベル=4(0〜4)でT-max=10.80 と、非常に危険な状態にあったので、果物の多食がプラーク悪化の要因の一つである可能性が、いつまでも私の脳裏に残り続けるところでした。
でも、今回は4ヶ月という短時間に、2カ所の肥厚したプラークが0.55mmも退縮したわけですから、果物の多食がプラークを肥厚させる要因ではなかったことは明白です。
4ヶ月で0.55mmも退縮したという事実は、平均的な症例よりもプラーク退縮スピードは早く(動脈硬化の未来塾 117))、果物の多食が逆に、プラーク退縮に貢献した可能性も考えられます。
◯:この方の“果物多食”という食習慣のおかげで、RAP食が一つの壁を突破できて、一歩前進したことになります。
もし、果物の多食がプラーク退縮に貢献しているとすれば、その大きな理由は“食物繊維”を多く摂取したからでしょう。
◯:この症例での、果物から摂取された1日分の食物繊維を計算しました。
リンゴ2個(1個300gとして)では食物繊維9.0g(水溶性=1.8g、不溶性=7.2g)、
小ミカン10個(1個100gとして)では食物繊維8.5g(水溶性=4.0g、不溶性=4.5g)、
キウイ1個(1個100gとして)では食物繊維2.5g(水溶性=0.7g、不溶性=1.8g)ですから、
果物の食物繊維だけで1日に 合計=20.0g(9.0+8.5+2.5)(水溶性=6.5g、不溶性=13.5g)摂取していたことになります。
ちなみに、さつまいも100gの食物繊維は2.3g(水溶性=0.5g、不溶性=1.8g)です。キウイ1個(約100g)は食物繊維が多い果物ですが、“さつまいも”もほぼ同じ量の食物繊維を含む果物と考えましょう。
“野菜はいっぱい食べていて、食物繊維はもう増やせない!”・・と、お考えの方、キウイ2個+さつまいも(100g)2本いただくと、2.5x2+2.3x2=9.6gになります。
小さい“焼き芋”ならオーブンでも15分程度で焼き上がりますし、キウイ、みかん、リンゴなどは日持ちもするし、重宝です。
◯:ただし、果物でも、バナナだけは当院では禁止です(血管エコー実例・研究 29))。
野菜?のアボカドは脂質が多すぎるので禁止です(動脈硬化の未来塾 95))。
◯:ドライフルーツも食物繊維はそのまま含まれており、摂取OKということになります。
(食物繊維が多いイチジクのドライフルーツなど、食物繊維が多く含まれている果物を推奨)
◯:本症例は、RAP食の基本に沿って、この4ヶ月間は当院推奨のトコロテン130gx2個/日、ブルガリア脂肪0ヨーグルト60〜70gを週に3〜4回だけ摂取していました。
◯:過去に、この方は健康のために30代〜50代の30年間も、玄米食(1日1膳のみ)を行なっていました。
この症例の、過去から現在までの事実関係から・・ご注意いただきたい点は、
「食物繊維の多い玄米食や、果物摂取を習慣としていても、過剰な脂質摂取があれば、不健康の根本原因であるプラーク肥厚を食い止める事は困難であった」
という事実です。
◯:初診時の高度プラーク堆積の主な原因は、最近5年間の植物油(アマニ油、オリーブオイル)の過剰摂取と思われます。(動脈硬化の未来塾 54)) (動脈硬化の未来塾 66))
『結論』
RAP食によるプラーク退縮治療の場合、果物は野菜類似の食品と捉え、1日にリンゴまたは柿を2個+小みかん10個(デコポン2個はたはオレンジ2個)+キウイ2個位までは食べてもOKと思われる。(糖尿病・糖尿病境界型の人はご注意ください)
・・・・・・つぶやき・・・
<今後のRAP食>
RAP食の未来を明るくする重要なキーワードの一つが“食物繊維”であることが、最近の私の記事でも感じられると思いますが、そんな折、天の啓示か・・・今回は、思いもかけない症例を経験できました。今まで、果糖の摂り過ぎは動脈硬化を助長するかのような疫学研究が報告されていましたが・・・、当院でも果物を制限していた2016年以前は、プラークを悪化させる食材に関する知見が乏しく、果物の多食に原因を求めた症例もありました。
2016年以降では、「プラーク悪化の原因が果物では?」と考える症例の経験も、実感もないために、2018年8月には果物の制限を撤廃しました(バナナは当院では禁止食品)。
でも、果物はどの位までなら大丈夫なのか?・・・・、と思いながら、果物には食物繊維が多く、ビタミンも豊富で、なぜ注意しなければいけないのかな? などと自問自答していました。
“プラーク予防には、野菜は救世主”との臨床データ(書籍参照)の解釈として、ビタミン類やファイトケミカルなどの効果ではなく、主に食物繊維の質と量によって腸内環境が改善し、そのおかげでマクロファージの貪食能がアップするとの推論がもっとも合理的だと感じています。
そうすると、そもそも果物と野菜の垣根を作ったのは人間です。経済活動・会話に便利なので名前をつけているだけです。そもそも、野生の動物には“くだもの”と“野菜”の区別はできませんし、する必要もありません。
そうです、“果物は糖分が含まれている野菜だ!”と思いましょう。 ある日の食事が野菜不足と思われたら、果物や焼き芋をいただきましょう(糖尿病以外の方)。 便秘予防にもなります。
(メモ:「炭水化物」=「糖質」+「食物繊維」 )
今後は、ストイックに脂質摂取を少なくすることは控えて、食物繊維の摂取量に関心を持ち、腸内環境に最大限の配慮を行うことで、免疫細胞の活性を上昇させ、普通に近い食事(昔の日本食)で容易にプラークを減らせるような食事療法へと、RAP食研究の重心をシフト中です。
レオナルド・ダ・ビンチの言葉
『ちっぽけな確実さは大きな嘘に勝る。』
2020年12月8日 記載
真島消化器クリニック
真島康雄