脳梗塞・心筋梗塞の予防法

LDL200以上の症例 に対するEPA&RAP食療法後のLDLと動脈プラークの変化

はじめに:
私の書籍(「脳梗塞・心筋梗塞・高血圧は脂が原因」幻冬舎:2018年4月出版;P=119)のデータによると、血液検査のLDL値は、男性の場合では食習慣(有意差なし)やプラークの状況を反映していません(有意差なし)が、女性の場合は、LDL値が高ければ食習慣(有意差あり)に影響を受け、プラークが増加していると言えます(有意差あり)。※書籍の表では有意差検定の表示が欠落

これは事実ですが、LDL高値の女性で動脈硬化がほとんど進んでいない脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル=0の方も多くいらっしゃいます(後述)。

今回は、コレステロール高値の実例において、
RAP食によるLDL・HDL・L/H値や動脈硬化(プラーク)の変化に関しての検討を行った。

<対象と方法>
2019年1月から2020年3月末日までの新患776例中、初診時にコレステロール低下薬(スタチン剤など)を服用していなかった570例中、脳梗塞・心筋梗塞リスクレベルが3〜4であった高危険群275例中、LDLが200以上であった15例(5.5%)中、3ヶ月以上経過を追えた14例について(表1)、動脈プラークの増減とLDLなどのコレステロール値の変化について検討した(表2)。
採血は随時採血。

RAP食に関しては上記の書籍(第3刷以降または(血管エコー実例・研究 29))を参照。
リスクレベルに関しては書籍を参照。

<治療>
処方として、症例1は(EPA900mg+DHA900mg)/日+ラックビー微粒N2.0g,2x/日、症例3は出血傾向のためEPA900mg/日+ラックビー微粒N2.0g,2x/日, 他の12症例はEPA1800mg/日+ラックビー微粒N2.0g,2x/日であった。全例にRAP食の食事指導を行なった。

「今回の症例呈示に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」

<結果1>
1)14例中、LDLの経過を追えた12例中11例でLDLは低下し、140未満まで低下した症例が3例(男性2例、女性1例)も認められた。
LDL低下の程度に関しては性差を認めなかった。(表2)

2) HDLの経過を追えた12例中10例でHDLは低下、2例で上昇。

3)L/H比の経過を追えた12例のうち、プラークが改善した10例中の4例でL/Hが上昇し、4例で低下、2例では不変であった。また、プラークが悪化した2例中の1例ではHDLは上昇した。

3)14例中12例(85.7%)において、初回の経過観察時点でプラークの改善を認めたが、2例(14.3%)はプラークが悪化(肥厚)していた。

4)プラークが悪化した2例も、食習慣の修正によって、1年以内にプラークは改善した(写真1)(写真2)。

<結果2>
◯プラーク悪化の2症例に関して、その後の経過を供覧。

1) 症例10.
プラーク悪化を確認された2020年5月下旬以降は、脂肪0乳製品の摂取制限、他を守り、約4ヶ月後にIMT減 0.27mm(写真1)。

2) 症例11.
プラーク悪化が確認された2020年3月中旬以降は、禁煙&脂肪0乳製品の2種類を摂取制限、他を守り、9ヶ月後にIMT減 0.42mm(写真2)を確認できた。

◯プラーク改善の12症例の内の3症例は、すでに掲載済み。
動脈硬化の未来塾 113)のCase1は今回の症例13、Case2は今回の症例12、Case3は今回の症例4ですので、具体的に詳細を知りたい方は参照ください。

<考察>
1)LDLが200以上の高値例でも、RAP食によるプラークの難治性は認めなかった。
また、LDLが400以上でもRAP食ならプラークは改善します動脈硬化の未来塾 103)ので、プラーク の原材料は、やっぱりLDLとは考えられません。

2)書籍「脳梗塞・心筋梗塞・高血圧は油が原因」に記載のデータによれば、男性はLDLと食習慣の関係性が認められませんでしたが、実際には、男性でも女性同様にRAP食でLDLが低下する例が多く認められた。

3)HDLが高ければ動脈硬化の進行が少ないように考えられているが、RAP食でプラークが改善しているにも関わらず、ほとんどの症例(12例中の10例)でHDLは低下しており、食事療法でHDLが低下しても、決して心配には及ばない。 L/Hの経過の検討でも、その増減とプラーク改善との有意な関係は認めなかった。

4)今回の対象症例の母集団である脳梗塞・心筋梗塞リスクレベルが3〜4であった高危険群275例中、LDLが99以下であった症例は42例(15.3%)であり、LDLが200以上であった症例の約3倍の人数でした(表1)。

一般の臨床現場において、「LDLが低いから」・・という理由で、脳梗塞・心筋梗塞リスクレベルが3〜4である脳梗塞・心筋梗塞直前の人達の約57%もの多くの人々が見過ごされているという・・極めて怖い現実が浮かび上がりました。(表1)・・この事実だけでも価値がありますが・・。

LDLの値による現状の健診のあり方が、いかに科学的でないかを・・・自己防衛として、一般の方自身もご理解いただければと思います(表1)。

◯:つまり、LDLが200超えだからと・・怖がらせるのも、怖がるのも・・科学的ではありません。
●:逆に、LDLが100以下だから・・と、男女共に安心してはいけません。

40歳以上なのに、血管エコーを受けていないことこそが危険なのです。

5)プラーク改善スピードが鈍い症例や悪化症例の理由は、ほとんどの場合、「初診時に行なっている、一般の常識では疑問が残るような具体的な指導内容」を、素直にお守りいただけていない場合でした。同様の傾向は(動脈硬化の未来塾 117))でも認められています。

6)参考のために*、40〜50代のLDL高値な女性のためのデータです。

LDLは200以上でしたが、脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル0(動脈硬化がほとんど進行なし)であった症例のリストをご覧ください。

<今までの症例のリスト>*

No 年齢 性別 F-max
(mm)
A. max
(mm)
S-amx
(mm)
C-max
(mm)
食習慣点数 LDL値
1 44 0.8 0.8 1.3 0.9 195 205
2 51 0.87 1.38 1.38 0.89 98 215
3 47 0.6 1.1 1.3 0.7 278 229
4 65 0.60 0.77 1.05 0.66 147 244
5 40 0.5 1.0 1.0 0.8 714 214
6 45 0.4 0.7 1.0 0.9 385 206
7 50 0.9 1.1 0.8 0.8 111 210
8 40 1.24 0.77 1.23 0.82 371 227
9 54 0.61 0.58 1.11 0.72 383 207
10 54 0.52 1.13 0.96 0.71 246 236
11 48 0.56 0.70 1.25 0.82 145 201
12 51 0.51 0.70 1.12 0.63 72 206
13 54 0.62 0.92 0.84 1.22 156 240
14 60 0.61 1.02 1.01 0.72 725 203
15 49 0.52 1.17 1.38 0.56 526 204
16 53 0.46 0.92 1.08 1.08 267 210
17 64 0.56 1.10 1.37 1.13 294 218
18 47 0.72 0.88 1.03 1.08 1071 215
19 40 0.51 1.09 1.03 0.57 510 201
20 60 0.52 0.72 1.34 0.61 -- 200
21 58 0.87 0.93 1.34 1.07 -- 200
22 45 0.99 1.34 0.92 0.72 268 211

※ F-max:左右の大腿動脈のmax-IMT(プラークの最大の厚さ:mm)
  A-max=腹部大動脈のmax-IMT, S-max=右鎖骨下動脈のmax-IMT,
  C-max=左右の頸動脈のmax-IMT

コメント:
・ほとんどの人は40〜50代の女性です。
・食習慣点数が250点以上の高値なのにレベル=0の方も多い。でも、ほとんどの例は60歳以下です。
男性では、食習慣が250点以上の場合、50代以降の方で、リスクレベル=0の方は、1例もおられません。
女性では、食習慣点数250点以上の場合、65歳以上の方でリスクレベル=0の方は、1例もおられません。
食習慣点数は、60歳を過ぎると急に信頼性がアップします。

<結論>
LDLが200以上であっても、スタチン剤などのコレステロール低下薬を使うことなく、EPA製剤とビフィズス菌製剤を服用いただき、食事療法(RAP食)をお守りいただければ、標準医療では治らないとされている動脈硬化(プラーク)を、1年以内に改善できる。

****つぶやき***

一般健診を受けられている方々へ、
血管エコーが可能な医院・病院で、血管を観ていただくまでは、

LDLの値の説明だけで・・『“身の危険が差し迫っている”などと、脅されたり』 or 『“大丈夫です”と、言われて安心したり』 など・・してはいけません。

でも、血管エコーの健診が・・一般の方に普及するのは・・まだまだ・・遠〜い・・未来の様です。

なぜなら・・
2021年の現在、日本一厳しい「パイロットの身体検査マニュアル」でも、未だ頚動脈エコーは標準化されていません。

◯パイロットの「身体検査マニュアル:令和元年6月17日:一部改正」からの抜粋

・脂質異常症の治療のために、スタチン、・・・・・・・・・・・・、を使用する場合には・・・、使用医薬品の副作用が認められず、高度の動脈硬化所見がないことが安静時心電図、眼底所見、頸部血管雑音等により確認されれば適合とする。」・・などと記載されています。

・・・エッ!頸動脈狭窄の有無を・・前時代的な“聴診器の検査”でもOKですか!?

パイロットが一人で操縦する飛行機、ヘリコプター・・乗るの・・怖くないですか〜?

少なくとも頸動脈エコーは「いの一番に必須」だと思いますが・・・・パイロット不足になったら大変だから・・・・という専門家のご判断なのでしょうか?

40歳以上のDr および パイロットは、至急8カ所の血管エコーをお受けいただくように、お願い致します!!

そして、スタチン剤を服用いただいた場合には、プラークの増減を“聴診器”ではなく“血管エコー”でフォローしていただきましょう。 ・・・そうしたら、スタチン剤でLDLは下がっても、プラークに対しては・・全く効果がないことを、身を以て体感できるはずです。

暗い話が多い中・・・今回の掲載記事が・・・・未来の明るい時空間への・・小さな“扉“として感じられたら幸いです。

レオナルド・ダ・ビンチの言葉
『ちっぽけな確実さは大きな嘘に勝る。』

2021年1月11日 記載
真島消化器クリニック
真島康雄

 


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