久留米市野中町の肝臓内科・血管内科・消化器内科・乳腺内科です。電話:0942-33-5006
はじめに:
私の書籍(「脳梗塞・心筋梗塞・高血圧は脂が原因」幻冬舎:2018年4月出版;P=119)のデータによると、血液検査のLDL値は、男性の場合では食習慣(有意差なし)やプラークの状況を反映していません(有意差なし)が、女性の場合は、LDL値が高ければ食習慣(有意差あり)に影響を受け、プラークが増加していると言えます(有意差あり)。※書籍の表では有意差検定の表示が欠落
これは事実ですが、LDL高値の女性で動脈硬化がほとんど進んでいない脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル=0の方も多くいらっしゃいます(後述)。
今回は、コレステロール高値の実例において、
RAP食によるLDL・HDL・L/H値や動脈硬化(プラーク)の変化に関しての検討を行った。
<対象と方法>
2019年1月から2020年3月末日までの新患776例中、初診時にコレステロール低下薬(スタチン剤など)を服用していなかった570例中、脳梗塞・心筋梗塞リスクレベルが3〜4であった高危険群275例中、LDLが200以上であった15例(5.5%)中、3ヶ月以上経過を追えた14例について(表1)、動脈プラークの増減とLDLなどのコレステロール値の変化について検討した(表2)。
採血は随時採血。
※RAP食に関しては上記の書籍(第3刷以降または(血管エコー実例・研究 29))を参照。
※リスクレベルに関しては書籍を参照。
<治療>
処方として、症例1は(EPA900mg+DHA900mg)/日+ラックビー微粒N2.0g,2x/日、症例3は出血傾向のためEPA900mg/日+ラックビー微粒N2.0g,2x/日, 他の12症例はEPA1800mg/日+ラックビー微粒N2.0g,2x/日であった。全例にRAP食の食事指導を行なった。
「今回の症例呈示に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」
<結果1>
1)14例中、LDLの経過を追えた12例中11例でLDLは低下し、140未満まで低下した症例が3例(男性2例、女性1例)も認められた。
LDL低下の程度に関しては性差を認めなかった。(表2)
2) HDLの経過を追えた12例中10例でHDLは低下、2例で上昇。
3)L/H比の経過を追えた12例のうち、プラークが改善した10例中の4例でL/Hが上昇し、4例で低下、2例では不変であった。また、プラークが悪化した2例中の1例ではHDLは上昇した。
3)14例中12例(85.7%)において、初回の経過観察時点でプラークの改善を認めたが、2例(14.3%)はプラークが悪化(肥厚)していた。
4)プラークが悪化した2例も、食習慣の修正によって、1年以内にプラークは改善した(写真1)(写真2)。
<結果2>
◯プラーク悪化の2症例に関して、その後の経過を供覧。
1) 症例10.
プラーク悪化を確認された2020年5月下旬以降は、脂肪0乳製品の摂取制限、他を守り、約4ヶ月後にIMT減 0.27mm(写真1)。
2) 症例11.
プラーク悪化が確認された2020年3月中旬以降は、禁煙&脂肪0乳製品の2種類を摂取制限、他を守り、9ヶ月後にIMT減 0.42mm(写真2)を確認できた。
◯プラーク改善の12症例の内の3症例は、すでに掲載済み。
動脈硬化の未来塾 113)のCase1は今回の症例13、Case2は今回の症例12、Case3は今回の症例4ですので、具体的に詳細を知りたい方は参照ください。
<考察>
1)LDLが200以上の高値例でも、RAP食によるプラークの難治性は認めなかった。
また、LDLが400以上でもRAP食ならプラークは改善します動脈硬化の未来塾 103)ので、プラーク の原材料は、やっぱりLDLとは考えられません。
2)書籍「脳梗塞・心筋梗塞・高血圧は油が原因」に記載のデータによれば、男性はLDLと食習慣の関係性が認められませんでしたが、実際には、男性でも女性同様にRAP食でLDLが低下する例が多く認められた。
3)HDLが高ければ動脈硬化の進行が少ないように考えられているが、RAP食でプラークが改善しているにも関わらず、ほとんどの症例(12例中の10例)でHDLは低下しており、食事療法でHDLが低下しても、決して心配には及ばない。 L/Hの経過の検討でも、その増減とプラーク改善との有意な関係は認めなかった。
4)今回の対象症例の母集団である脳梗塞・心筋梗塞リスクレベルが3〜4であった高危険群275例中、LDLが99以下であった症例は42例(15.3%)であり、LDLが200以上であった症例の約3倍の人数でした(表1)。
一般の臨床現場において、「LDLが低いから」・・という理由で、脳梗塞・心筋梗塞リスクレベルが3〜4である脳梗塞・心筋梗塞直前の人達の約57%もの多くの人々が見過ごされているという・・極めて怖い現実が浮かび上がりました。(表1)・・この事実だけでも価値がありますが・・。
LDLの値による現状の健診のあり方が、いかに科学的でないかを・・・自己防衛として、一般の方自身もご理解いただければと思います(表1)。
◯:つまり、LDLが200超えだからと・・怖がらせるのも、怖がるのも・・科学的ではありません。
●:逆に、LDLが100以下だから・・と、男女共に安心してはいけません。
40歳以上なのに、血管エコーを受けていないことこそが危険なのです。
5)プラーク改善スピードが鈍い症例や悪化症例の理由は、ほとんどの場合、「初診時に行なっている、一般の常識では疑問が残るような具体的な指導内容」を、素直にお守りいただけていない場合でした。同様の傾向は(動脈硬化の未来塾 117))でも認められています。
6)参考のために*、40〜50代のLDL高値な女性のためのデータです。
LDLは200以上でしたが、脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル0(動脈硬化がほとんど進行なし)であった症例のリストをご覧ください。
<今までの症例のリスト>*
No | 年齢 | 性別 | F-max (mm) |
A. max (mm) |
S-amx (mm) |
C-max (mm) |
食習慣点数 | LDL値 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 44 | 女 | 0.8 | 0.8 | 1.3 | 0.9 | 195 | 205 |
2 | 51 | 女 | 0.87 | 1.38 | 1.38 | 0.89 | 98 | 215 |
3 | 47 | 女 | 0.6 | 1.1 | 1.3 | 0.7 | 278 | 229 |
4 | 65 | 女 | 0.60 | 0.77 | 1.05 | 0.66 | 147 | 244 |
5 | 40 | 女 | 0.5 | 1.0 | 1.0 | 0.8 | 714 | 214 |
6 | 45 | 男 | 0.4 | 0.7 | 1.0 | 0.9 | 385 | 206 |
7 | 50 | 女 | 0.9 | 1.1 | 0.8 | 0.8 | 111 | 210 |
8 | 40 | 男 | 1.24 | 0.77 | 1.23 | 0.82 | 371 | 227 |
9 | 54 | 女 | 0.61 | 0.58 | 1.11 | 0.72 | 383 | 207 |
10 | 54 | 女 | 0.52 | 1.13 | 0.96 | 0.71 | 246 | 236 |
11 | 48 | 女 | 0.56 | 0.70 | 1.25 | 0.82 | 145 | 201 |
12 | 51 | 女 | 0.51 | 0.70 | 1.12 | 0.63 | 72 | 206 |
13 | 54 | 女 | 0.62 | 0.92 | 0.84 | 1.22 | 156 | 240 |
14 | 60 | 女 | 0.61 | 1.02 | 1.01 | 0.72 | 725 | 203 |
15 | 49 | 女 | 0.52 | 1.17 | 1.38 | 0.56 | 526 | 204 |
16 | 53 | 女 | 0.46 | 0.92 | 1.08 | 1.08 | 267 | 210 |
17 | 64 | 女 | 0.56 | 1.10 | 1.37 | 1.13 | 294 | 218 |
18 | 47 | 男 | 0.72 | 0.88 | 1.03 | 1.08 | 1071 | 215 |
19 | 40 | 男 | 0.51 | 1.09 | 1.03 | 0.57 | 510 | 201 |
20 | 60 | 女 | 0.52 | 0.72 | 1.34 | 0.61 | -- | 200 |
21 | 58 | 女 | 0.87 | 0.93 | 1.34 | 1.07 | -- | 200 |
22 | 45 | 女 | 0.99 | 1.34 | 0.92 | 0.72 | 268 | 211 |
※ F-max:左右の大腿動脈のmax-IMT(プラークの最大の厚さ:mm)
A-max=腹部大動脈のmax-IMT, S-max=右鎖骨下動脈のmax-IMT,
C-max=左右の頸動脈のmax-IMT
コメント:
・ほとんどの人は40〜50代の女性です。
・食習慣点数が250点以上の高値なのにレベル=0の方も多い。でも、ほとんどの例は60歳以下です。
・男性では、食習慣が250点以上の場合、50代以降の方で、リスクレベル=0の方は、1例もおられません。
・女性では、食習慣点数250点以上の場合、65歳以上の方でリスクレベル=0の方は、1例もおられません。
・食習慣点数は、60歳を過ぎると急に信頼性がアップします。
<結論>
LDLが200以上であっても、スタチン剤などのコレステロール低下薬を使うことなく、EPA製剤とビフィズス菌製剤を服用いただき、食事療法(RAP食)をお守りいただければ、標準医療では治らないとされている動脈硬化(プラーク)を、1年以内に改善できる。
****つぶやき***
一般健診を受けられている方々へ、
血管エコーが可能な医院・病院で、血管を観ていただくまでは、
LDLの値の説明だけで・・『“身の危険が差し迫っている”などと、脅されたり』 or 『“大丈夫です”と、言われて安心したり』 など・・してはいけません。
でも、血管エコーの健診が・・一般の方に普及するのは・・まだまだ・・遠〜い・・未来の様です。
なぜなら・・
2021年の現在、日本一厳しい「パイロットの身体検査マニュアル」でも、未だ頚動脈エコーは標準化されていません。
◯パイロットの「身体検査マニュアル:令和元年6月17日:一部改正」からの抜粋
「・脂質異常症の治療のために、スタチン、・・・・・・・・・・・・、を使用する場合には・・・、使用医薬品の副作用が認められず、高度の動脈硬化所見がないことが安静時心電図、眼底所見、頸部血管雑音等により確認されれば適合とする。」・・などと記載されています。
・・・エッ!頸動脈狭窄の有無を・・前時代的な“聴診器の検査”でもOKですか!?
パイロットが一人で操縦する飛行機、ヘリコプター・・乗るの・・怖くないですか〜?
少なくとも頸動脈エコーは「いの一番に必須」だと思いますが・・・・パイロット不足になったら大変だから・・・・という専門家のご判断なのでしょうか?
40歳以上のDr および パイロットは、至急8カ所の血管エコーをお受けいただくように、お願い致します!!
そして、スタチン剤を服用いただいた場合には、プラークの増減を“聴診器”ではなく、“血管エコー”でフォローしていただきましょう。 ・・・そうしたら、スタチン剤でLDLは下がっても、プラークに対しては・・全く効果がないことを、身を以て体感できるはずです。
暗い話が多い中・・・今回の掲載記事が・・・・未来の明るい時空間への・・小さな“扉“として感じられたら幸いです。
レオナルド・ダ・ビンチの言葉
『ちっぽけな確実さは大きな嘘に勝る。』
2021年1月11日 記載
真島消化器クリニック
真島康雄