久留米市野中町の肝臓内科・血管内科・消化器内科・乳腺内科です。電話:0942-33-5006
薬でLDLを強力に低下させても頸動脈プラークは退縮しません。この事実は大規模な
臨床試験で確認済みです。(N Engl J Med ; 359:529-533、July 31, 2008)(大規模臨床試験ENHANCE試験:米国)
最近、順天堂大学の代謝内分泌内科学の研究チームのOsonoi らは、血管平滑筋の貪食作用不全モデルのマウスにおいて、西洋食(高脂質、高カロリーに設定した餌)を与えると、大動脈がプラークで狭窄するなどの人間類似の所見が顕著に認められ、「血管平滑筋細胞のオートファジー機能不全は細胞死や動脈硬化を促進する」というタイトルで科学雑誌「Autophagy 」オンライン版(2018年7月19日付)volume14,2018に報告している。
プラークが進展することも、退縮することも、LDLコレステロールの値が影響するのではなく、血管平滑筋細胞やマクロファージなどの貪食細胞の“働き”が大きく関与することは間違いありません。
当院では、2007年頃の数例のプラーク改善症例を“手がかり”として、早くからマクロファージの使命の一つである“不要物の貪食”作用に着目し、マクロファージの貪食能upの観点から、コレステロール低下薬(スタチン剤)offのRAP食を提案し、臨床経験を重ねてきました。
最近の症例を中心に供覧しますので、頸動脈などにプラークの存在を指摘されて、不安な毎日を過ごされている方々にとって、“希望の証”となれば幸いです。
「今回の症例呈示に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」
<症例1. 54歳 男性>
図1
<症例の要約>
父:65歳で脳梗塞
<治療>
1)エパデールS(600)3,3x+ラックビー微粒N,2g,2x開始
2)RAP食開始。
備考):EPA製剤(エパデールSなど)の保険適応は「高脂血症」・「閉塞性動脈硬化症」です。TGなどが低くても、動脈硬化が進行した状態による血行不全のために、下肢の冷感・歩行時のしびれ感などの症状があれば、「閉塞性動脈硬化症」の診断で保険適応です。
<結果>
左内頸動脈狭窄症(50%狭窄)プラーク:IMT=3.58mm とプラーク改善:図1:参照
(注意:外径まで縮小しているので、狭窄率の改善は鈍い。プラークは実測で観るべき。)
経過中:胸圧迫感の出現なし。
<症例2. 63歳 女性>
図2
<症例の要約>
初診時の服用薬・・「アムロジピン(5)1,1x+ドキサゾシン錠(1)1,1x+アトルバスタチン(10)1,1x+ベザトールSR錠(200)1,1x+メルプラールカプセル((300)6 cap,2x+エピナスチン塩酸塩錠(20)1,1x—中)
<治療>
<結果>
左内頸動脈狭窄症(20%狭窄):プラーク:IMT=1.69mmへ改善:図2:参照
<症例3. 65歳 男性>
図3
<症例の要約>
<治療>
<結果>
左頸動脈プラーク=2.25mmへプラーク改善:図3:参照
<症例4. 64歳 男性>
図4
<症例の要約>
<治療>
RAP食指導&服薬:「エパデールS(900)2,2x+プラビックス(25)2,1x+ラックビー微粒N,2g,2x」開始(ゼチーアは中止)
<経過&結果>
<症例5. 78歳 男性>
図5
<症例の要約>
<治療>
<経過&結果>
<症例6. 58歳 男性>
図6
<症例の要約>
<治療>
<経過&結果>
<症例7. 67歳 男性>
図7
<症例の要約>
<治療>
注):「かかりつけ医へのスタチン剤中止の希望が叶えられず、本人意思でロスバスタチンは2020年1月まで1日置きに服用も、2020年2月以降は服用を中止し、数ヶ月に一度の採血前1週間だけ服用されています。」
<結果>
<症例8. 46歳 男性>
図8
<症例の要約>
<治療>
<結果>
「あとがき」
「食習慣で悪化させた血管プラークを、食習慣と免疫細胞群で改善させる」・・俄かには信じがたい方法で、信じがたい結果を得ようという試みは、経営的にはマイナスでしたが、2007年に将来“あったらいいな〜”と思える医療に着手しました。
理由は簡単です、父は63歳で突然死(63歳:心筋梗塞)でした。2007年、56歳の自分自身の頸動脈を観ると1.9mmのプラークが・・。当時でもスタチン剤を飲んで経過観察するのが普通でした(13年後の現在も同じです)。治せない状態の病気が進行している・・不安は募る一方で、私も副作用で中止するまでの1年間ほどはスタチン剤を服用しました。(動脈硬化の未来塾 31))
でも、患者さんの頸動脈や右鎖骨下動脈プラークの程度と食習慣を詳しく比較検証していくうちに、食習慣がプラークを増やすための最も重要なファクターXであることを突き止めました。
その後の研究は(血管エコー実例・研究 29))に膨大な情報として蓄積されています。
(おかげで、私の頸動脈プラークは1.9mm(2007年4月)→0.84mm(2020年8月)まで退縮)
進化を重ねて、やっと・・目標のレベルまで到達したと思われる“最新RAP食”です。
以前と比べて格段に進化しましたので、最新RAP 食の必須条件を必ず、定期的にお読みください。 (血管エコー実例・研究 29))
<注意>:
○長年の経験から、スーパーでよく見かける“柔らかいトコロテン”は決して推奨していません。トコロテンは・・例えると、“登山の命綱”に相当しますので、価格で選んではいけません。
○特に、遠方から当院へ通院中の方へ・・・“柔らかいトコロテン”を摂取されているなら、プラーク改善をスピードアップさせるため、至急、“コシのあるトコロテン”(可能な限り260g/d以上)へ変更ください。 トコロテン摂取が困難な海外の方は粉寒天で代用。
摂取量などの詳細は(血管エコー実例・研究 29))に記載。
なお、この指導は、担当医の服薬指導と同じレベルだとお考えください。
(当院では、トコロテンは“薬”扱いです。)
○当院では、通院中の方に脂肪0ブルガルアヨーグルトの40g/d:毎日摂取を指導しています。それでも、昔の推奨のまま・・・60g以上を毎日摂取されている方がおられますが(50gまでは許容範囲)、当院へ通院いただく限りにおいて、必ず! 40g/dへ減量しての毎日摂取をお願いいたします。
(当院では、脂肪0ヨーグルトは“薬”扱いです。)
○EPAやDHAなどのω3脂肪酸の摂取は、マクロファージのためなら、1日600mgの摂取でOKです。フィッシュオイルの20〜30%程度はEPA/DHAなどのω3脂肪酸ですが、70〜80%はその他の油(脊椎動物共通の油)であることをくれぐれもお考えください。
(特に、海外でEPA製剤が入手困難な場合)
自分に都合の良いω3脂肪酸の成分だけが、腸で吸収されるわけではありません。
なお、病院でいただくEPA製剤(EPA+DHA製剤)はカプセル内オイルの98%以上がEPA(EPA+DHA)成分です。
バイアスピリン・クロピドグレル・その他の抗血小板剤や、エリキュースなどの抗凝固剤を服用されていない場合には、脳梗塞予防の観点から、弱い抗血小板作用を期待して、エパデール:EPA製剤(1800mg/d)またはロトリガ(EPA+DHA)製剤(2000mg/d)を使用します。
エパデールやロトリガなどのお薬は、決して、何があっても自己判断で中止しないでください。
薬が切れたから・・とか、コレステロールが下がったから・・とか、飲むのを忘れていた・・とか、決して自己判断で止めない様にしましょう。
薬が切れて、脳梗塞になった方もおられます(血管エコー実例・研究 20))。
<おわりに>
私の研究を信じてくださる方々が、動脈硬化が原因で、決して不幸な目に遭われない様に祈念いたしております。
なお、現在も研究は進行中ですので、このRAP食に関する研究のページを定期的に閲覧いただくようにお願いいたします。
頸動脈プラークに関する『参考資料1』
権威ある科学雑誌N Eng J Med. 1999によれば、65歳以上の高齢者5,858名の頸動脈IMT(プラークの肥厚:mm)を調べて、その程度により5段階にグループ分けしたところ、IMT高値群ほど脳または心血管イベントを好発した。
最もプラークが肥厚していた第五分位の7年間のイベント発生率は25%もあるのに、最も肥厚していなかった第一分位のグループはわずか5%であり、第五分位の群は第一分位の群より5倍もイベント発生のリスクが高い。
備考):分位は内頸動脈のプラーク高さと、総頸動脈のプラークの高さを複合して決められていますが、第五分位の大部分では内頸動脈のプラークは18mm以上、または総頸動脈のプラークは1.18mm以上でした。一方で第一分位のグループは、内頸動脈のプラークは0.90mm未満、または総頸動脈のプラークが0.87mm未満でした。ちなみに第四分位は、内頸動脈で1.40〜1.80mmの人達が大部分を占めています。(詳しくは原著を参照ください)
余談ですが、2007年4月・・私の頸動脈プラークは1.9mmでしたので、上記の第五分位に相当し、当時の私は現在の私(13年後)よりも、はるかに危険な状態でした。
現在は頸動脈のプラークは0.84mmに改善しましたので、RAP食は私にとってのタイムマシンだと言えます。
頸動脈プラークに関する『参考資料2』
聖マリアンナ医科大学のホームページから抜粋させていただきました。
文献上では、頸動脈狭窄症の観血的な治療であるステント留置術を受けても1年以内に12.2%も脳・心血管イベントのリスクがあり、しかも死亡する場合もあります。
さて、術後2〜5年以内だと・・・どれ程のイベント発生(%)になるのでしょう?
<観血的治療が必要とされる症例における、頸動脈狭窄症の非観血的な治療>
当院の成績:
2016年1月〜2017年12月の期間中、他の病院にて頸動脈の内膜剥離術あるいはステント留置術を勧められたので当院へ受診され、その後も1年以上も観血的手術を受けずにRAP 食で経過フォロー中の方が8名おられます。
8名全員において、プラークは改善(当院の基準)し、脳・心血管イベント発症率は0%でした。
2020年8月15日記載
真島消化器クリニック
真島康雄