脳梗塞・心筋梗塞の予防法

TG>1000のまま、RAP食でプラークが退縮した原発性高脂血症の1例

「37歳で高脂血症を指摘され、毎日注射でコレステロールを下げないと・・せめて週に1回でも注射が必要・・そうでないと、そのうちに心筋梗塞・脳梗塞になり、車椅子生活も覚悟しなければいけない・・」

現在56歳の原発性高脂血症の患者さんが、実際に病院で説明受けた内容です。明瞭に覚えておられます。

心筋梗塞・脳梗塞の根本原因は冠動脈のプラーク・脳動脈のプラークです。

動脈内のプラークが肥厚して、動脈が細くなり・・それが進行して・・脳梗塞・心筋梗塞になるのです。プラークの詳細は(動脈硬化の未来塾 31))

ですから、全身の動脈のプラークを減らせれば、心筋梗塞・脳梗塞の心配はなくなります。

今回、TG(中性脂肪)が極めて高値のまま、RAP食と若干の脂質改善薬にてプラーク退縮に成功した症例を経験しましたので提示します。

「今回の症例呈示に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」


症例1. 54歳 男性  (図1 Case 1)

まずTGが高値のままプラークが改善した実際の写真をご覧ください

この不思議と思われる現象、実は「書籍」の理論の正しさの証かもしれません。

<主訴>高脂血症

<家族歴>特になし 両親や弟に高脂血症(―)

<現病歴>
2000年7月頃(37歳)・・・健診で高脂血症指摘あり。

担当医から・・「毎日の注射でコレステロールを下げないといけない・・せめて1/週でも注射が必要・・そうでないと、そのうちに心筋梗塞・脳梗塞になり、車椅子生活も覚悟しなければいけない・・」と、説明受けたことを明瞭に記憶。
仕事の関係で、1/週の注射もできず、脂質改善薬の2種類を服用開始。

2012年4月頃から、脂質改善薬を4種類に増量された。
「ゼチーア(10)1T,1x+リピディル(53.3mg)2T,1x+ユベラNソフトカプセル(200)3cap,3x+エパデールS(900)3P,3x」・・その後当院初診までの5年間は同処方薬。
(2012年以降2015年まで、TGは500〜800で推移していた)

2015年5月  胆石症で胆嚢摘出
2016年7月 LDL 75 TG 270 HDL 40
2017年1月 LDL 84 TG 309 HDL 41
2017年7月 LDL 60 TG 573 HDL 38

2017年8月 当院初診  食習慣点数605点 BMI=27.3
肉:大好き、甘いもの:普通、魚:好きではない、揚げ物:好き、野菜:普通
黄色腫(―)、糖尿病(-)、高血圧(―)、アルコール摂取(-)

8カ所の血管エコー検査(血管エコー実例・研究 1))
腹部大動脈IMT=0.87mm(A-max)
右鎖骨下動脈IMT(縦断)=2.45mm(図1左)(S-max)
右頸動脈分岐部IMT=0.82mm
左頸動脈分岐部IMT=1.28mm (図1左) (C-max)
右総頸動脈IMT=0.53mm 左総頸動脈IMT=0.77mm
右大腿動脈IMT=0.77mm(F-max) 左大腿動脈IMT=0.67mm
******脳梗塞・心筋梗塞リスクレベル=2(0〜4)******

<治療>
1. RAP食開始
2. 薬の変更
・リピディル(53.3mg)2T,1x→中止
・ユベラNソフトカプセル(200)3cap,3x→中止
・ゼチーア(10)1T,1x→継続:ゼチーア(10)1T,1x
・エパデールS(900)3P,3x→減量:エパデールS(900)2P,2x
・ラックビー微粒N,2g,2x 開始

<結果>
2017年9月 LDL 33 TG 2048 HDL 24
2017年12月 LDL 47 TG 1399 HDL 26
2018年 3月  LDL 72 TG 2848 HDL 24 TC=386
動脈硬化指数=15.1(基準値:4.0以下)

2018年4月 2回目の受診 血管エコー所見(図1)BMI=26.3 (体重-3Kg)
右鎖骨下動脈IMT(縦断)=2.45→1.95 mm(図1中央)
左頸動脈分岐部IMT=1.28→1.13 mm(図1中央)
2019年5月  LDL 33 TG 2038 HDL 22

2019年7月 3回目の受診  血管エコー所見(図1右) BMI=26.3
右鎖骨下動脈IMT(縦断)=2.45→1.95→1.92 mm(図1右側)
左頸動脈分岐部IMT=1.28→1.13→1.06 mm(図1右側)
右頸動脈分岐部IMT=0.82→**********→0.84mm
右大腿動脈IMT=0.77→0.62 mm
左大腿動脈IMT=0.67→0.51 mm

結果の要約:空腹時の採血にも関わらずTGが異常高値となる症例において、RAP食を実行しながら、薬物服用(ゼチーア(10)1T,1x+エパデールS(900)2P,2x
+ラックビー微粒N,2g,2x)を併用して経過を見たところ、2年間に渡りTGが2000以上で推移していたと思われますが、血管プラークは2カ所の観察ポイントのいずれでも、明らかな退縮を認めた。

<考察>
・一般にTGが高い場合は4時間以上前の食事内容に影響を受けますので、随時採血でTGが高い場合は真摯に受け止めて食習慣を見直す必要があります。しかし、RAP食をしているけどTGが高いままで推移する場合、そんな場合でもプラークは改善しますが、血管エコーでの経過観察が必要です。
・つまりRAP食でLDLやTGが低下する場合も、低下しない場合もありますので、採血データに一喜一憂する必要はありません。 そのような採血データは参考にはなりますが、決定的な判断材料は頸動脈プラークや、その他の部位の血管プラークの増減です。
・スタチン剤でLDLを強力に下げても・・プラークが減らないことは、最も権威ある医学雑誌に報告されています。 N Engl J Med 2008; 359:529-533 (大規模臨床試験ENHANCE試験:米国) ちなみに、コレステロールを下げるスタチン剤には“血液サラサラ効果:抗血小板剤としての効果”はありませんのでご注意ください。
・今回の症例から、体質によって上昇しているTGなら、リピディル(53.3mg)などのフェノフィブラート錠でTGを下げても、プラークの進展防止効果は望めない可能性があります。どんなに薬で血中の脂質(LDLやTG)を“いじって”も・・口に入れるものが同じでは・・プラークが改善するどころか・・・本人の採血データで・・LDLやTGが低値になり、脂質の多い食べ物でも安心して食べるので・・プラークは逆に悪化するでしょう。(動脈硬化の未来塾 68))
・原発性高脂血症は一般に5つの病型に分類されます。
1)原発性高カイロミクロン血症(特発性高カイロミクロン血症、など4疾患)
2)原発性高コレステロール血症(家族性高コレステロール血症、など2疾患)
3)内因性高トリグリセリド血症(特発性高トリグリセリド血症、など2疾患)
4)家族性III型高脂血症
5)原発性高HDL-コレステロール血症
(厚生省特定疾患原発性高脂血症調査研究班)
本例は精査が行われていませんが、1)に相当する病態かと思われ、
「原発性高カイロミクロン血症(指定難病262)」の可能性もありますが、「難病情報センター」のホームページによると、“治療法の中心は、脂肪制限食であり、1日の脂質摂取を15〜20g以下に抑えるようにします”と、記載されていますが・・これはまさしく「RAP食」と同じで、昭和21年から30年頃の平均的な日本人の脂質摂取量と同じです(血管エコー実例・研究 29))
・家族性の高コレステロール血症でLDL高値を健診で指摘され、本例と同様に・・「心筋梗塞・脳梗塞がいつ起こってもおかしくない・・」と、血管の中の状況を見ることもなく、説明を受け(脅されているも同然)、大きな不安を抱えて来院される方も多いですが、実際にはLDLが高くてもプラークは改善します(動脈硬化の未来塾 75))。 
・一方で、家族性高コレステロール血症の患者さん720人を対象として、スタチン剤でLDLを強力に低下させてもプラークは改善しませんし、脳梗塞や心筋梗塞のリスクも満足に低下しません(N Eng J 論文 2008;359:529−533 を(動脈硬化の未来塾 42))に要約して記載)。

図2

8カ所の血管エコーを受けていれば、採血データであるLDLやTGの値に恐怖感を持つ必要はありません。(図2)

でも、血管をエコーで見ない医療機関なら・・こんな感じでしょうか(図3)。

図3

プラークがあるのか? ないのか?・・進行しているのか?・・「高コレステロールは悪!」と・・医師やメディアが情報発信をしているので・・・・悲しいかな・・・想像は恐怖へと・・向かいます

最近の明るいニュース
惑星探査機“はやぶさ2”の偉業は、映像・画像を信じて成し得た偉業でした。

もし、人工クレーター作成後の、クレーター周辺の明瞭な写真がなかったら・・リスクの%だけを考慮した上層部は・・2回目の着陸を・・ギャンブルと同じとみなし・・許可しなかったでしょう。(テレビ取材の内容から)

・スタチン薬などでLDLやTGを下げてもプラークは改善しませんが、RAP食でLDLやTGが低下する場合はプラークの低下も良好です。
(これは現代医学の限界である“動脈硬化の進行を防止”ではなく、全く次元の異なる領域の“動脈硬化を治せる時代が到来した”ということを意味します。
皆さん方にとって、これは非常に明るいニュースではないでしょうか。決して“夢”などではありません“現実”です。)
・TGが2000以上だと、急性膵炎のリスクが上昇するとされますが、アルコール歴もなく、糖尿病でもなく、胆嚢摘出後なので胆石・胆砂による胆道、膵炎の可能性も少なく、プラークも改善していることから、また、リピディル(53.3mg)(一般名:フェノフィブラート)の副作用としても膵炎の報告例もあり、現状の食事療法・薬物療法での経過観察を地元の先生にお願いしています。

<まとめ>
・原発性高脂血症の男性で、RAP食&エパデールS(900)2,2x+ゼチーア(10)1T,1x+ラックビー微粒N,2g,2xで約2年間も経過観察し、TGが2000以上で推移したと考えられるも、プラーク(動脈硬化)が進行せず、むしろプラーク改善を確認できた1症例を経験した。
・原発性高脂血症の患者さんに勇気と希望を与えられる症例かと思われます。

「コラム」
不思議ですが、事実を列記
1. LDLやTGが非常に低くてもプラークが進行している場合がありますが、RAP食を行うと、不思議ですがプラークは改善します(動脈硬化の未来塾 52))。 つまり、脂質を食べたことで血液中を多く流れるようになった脂質のある部分がプラークとして沈着します。・・プラークの成分は脂質ですから・・、しかもそれは採血のLDLやTGでカウントできない“何か”?の存在が疑われます。
なお、くれぐれも・・ですが・・プラークの成分は“糖質”ではありません。

2. 本例では、17年間も薬でTGを500-800に低下させていたために、プラークの肥厚が S-max=2.45mm程度で済んだ・・・と考えられないこともありませんが、その後に、その原因であるTGが2000以上に上昇してもプラークが退縮した・・その事実を考えれば、S-max=2.45mmのプラークの原因は体質により上昇したTGではないことは明らかです。実は、初診時のプラークの根本原因は・・食習慣点数=605点という脂質リッチな食習慣:口から実際に入る脂質成分の“何か?”が犯人です。基礎医学の研究者にはぜひ参考にしていただきたい事実関係です。
RAP食でプラークが改善したことでその“何か?”の存在は確認できますが、プラークの原因となる脂質の特定が困難。おそらくは・・食後に上昇するTG内あるいはその周辺に原因物質が含まれているのでしょう。・・以下に参考資料を提示します・・


『TGに関する追加研究』

2018年4月発刊の「脳梗塞・心筋梗塞・高血圧の原因は油」(幻冬舎)に紙面の都合で掲載できなかったデータです。(集計は当時のまま)

<男性:随時採血でのTG値と血管プラークとの関係>

(表1) 随時採血:(採血時間にこだわらない採血)

結果:
1. 男性の場合、TGが高いほど階段状に動脈硬化は進行しています。空腹時を含む随時採血のデータですが・・・TGの値は・・LDLよりはるかに有意義です。
2. 男性の場合、TGが150以上の場合は、明らかに大腿動脈や腹部大動脈にプラークが多く堆積しています。(頸動脈や右鎖骨下動脈では全く差が出ない・・TGが高いからといって頸動脈エコーで研究を行ってもそれを裏付ける結果は出ないでしょう)

考察:
随時のTG値の検討ですが、TGが低いほどプラークの堆積が少ないことが判明しました。 この結果から、メタボ健診を続けるならLDLよりもTGを重要視すべきで、空腹時のTGを149以下ではなく、100以下にすべきでしょう・・これは各個人で理解しましょう(薬で下げるのは得策ではない)・・ただし、採血の2〜3日前から、脂質の多い食べ物を摂取していないのにTGが高値の場合は体質でしょう・・今回提示した症例のごとく、RAP食に心がける必要があります。
備考)T-maxが高値であるということは、脳や心臓を含めた全身の細動脈〜大動脈内のプラークの総量が多いということを意味します・・つまり、脳を含めた全身の動脈硬化の進行度を最も正しく測定できる実数です。(詳細は「脳梗塞・心筋梗塞・高血圧の原因は油」(幻冬舎)1984 に記載)
いわゆる現状の“動脈硬化指数”=「(TC - HDL)/ HDL」はコレステロール値を拠り所にしていますので、T-maxと比べれば全く正確さの次元が異なります。
ほとんどのDr が「LDL値が高いから動脈硬化は進行する・・」と、教育を受けていますから・・・、現状では・・信じられないのも無理ありませんが、LDLはプラークの程度を正しく表現できないのです:「脳梗塞・心筋梗塞・高血圧の原因は油」(幻冬舎)1984; 119P & (動脈硬化の未来塾 42))
ですから、“動脈硬化指数”や LDL/HDL 比などで不安になる必要はありません。

<女性:随時採血でのTG値と血管プラークとの関係>

(表2)

結果:
1.女性の場合、随時採血のTG値が200以上の場合は、プラークが明らかに多く堆積している。
2.女性の場合、随時採血のTG値が200以上の場合は、頸動脈や腹部大動脈にプラークが多く堆積している。
3.女性の場合、随時採血でTG値が200未満の場合は、動脈硬化の進行度合いに差を認めない。

<まとめ>
・提示した症例のごとく、過剰な脂質を制限したRAP食を守れれば、経過中にLDLが高くても、TGが高くてもプラークの減少が高率に望めます(動脈硬化の未来塾 69))ので、過剰な心配ご無用です。 RAP食でプラークが悪化する場合は極めて特殊な例です。 動脈硬化の本当の指標(T-max)は、主にあなた個人が余計な脂質、または過度のアルコールをどれだけ口に入れたかで決まります。
・随時採血で、男性はTG150以上、女性はTG200以上だと、明らかに動脈硬化が進行していると言えます。
・ただし、空腹時の場合はTG値が低く出るので、健診などの空腹時の場合、男性のTG値は100以下、女性の場合は149以下を基準にするのが妥当かと思われます。

・・・あとがき・・・
家族性高脂血症の場合、現状のメタボ健診ではコレステロール高値を指摘されますが、血管の中を観察することなく、コレステロールを下げる薬(スタチン剤など)を勧められたら、まず「RAP食」で食事療法に励みます・・と伝えましょう。そして、可能なら頸動脈エコーだけでも受けましょう。

2019年7月17日 記載
真島消化器クリニック
真島康雄


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