脳梗塞・心筋梗塞の予防法

初診におけるLDL値と動脈硬化の進行度(プラークの程度)に関する研究

はじめに:
健診の目的は、ガンの早期発見や脳梗塞・心筋梗塞・認知症などの原因となる動脈硬化状態(プラーク)を早期に発見することです。

現状では、頸動脈エコーでの2次健診が普及していないので、LDL値で血管プラーク(動脈硬化の存在)を推定しているのが実情です。

今回は、LDLの値と血管プラークとの関係について検討を行った。

「今回の掲載に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」

 

<臨床研究>健診におけるLDL値と動脈硬化の進行度に関する研究       ―特にLDL値と血管プラークとの関係についてー

目的:
LDL値と動脈硬化(プラーク)の進行度の関係を明らかにする

対象:
2007年7月1日から2024年4月26日までの初診の方で、脂質低下薬の服用歴がなく、8カ所の血管エコーを行い、食習慣点数と受診時のLDLが判明している45歳以上の計3705人(男1683人、女2022人)を対象とした。

方法:
8カ所の血管エコーとは、左右の頸動脈、右鎖骨下動脈(一部は左)、腹部大動脈〜左右の腸骨動脈、左右の大腿動脈の血管エコーで、詳細は「脳梗塞・心筋梗塞・高血圧は脂が原因」(幻冬舎)2018年に掲載。

脳梗塞・心筋梗塞のリスクレベルは0〜4までに分類。基準は上記の書籍に掲載。

なお、C-max(単位:mm)とは左右の頸動脈(内頸動脈、外頸動脈、分岐部、総頸動脈)におけるプラークの高さ(IMT:血管の内膜中膜の肥厚の高さ)の最高値であり、総合動脈プラーク(T-max)とはC-max+A-max+F-max+S-max (mm) とした。

T-max, C-max, A-max, F-max, S-max に関しての詳細は上記の書籍に掲載。

LDLと食習慣との関係性を探る意味で、プラークに食習慣の影響が出やすい45歳以上を研究対象とした。食習慣点数表は上記の書籍に掲載。

LDLの値により、男女それぞれ 1群:LDL≦69 、 2群:LDL 70〜119、3群:LDL 120〜139、4群:LDL 140〜199、5群:LDL ≧200 とした(表1〜3)。

また、表1は45歳以上の全男性の集計結果である。

しかし、結果として、各群において、平均年齢の偏りが生じたため(平均年齢は平均IMTを左右する最も大きな因子)、各群の平均年齢が近似するように年齢調整を行なった(表2)。

したがって、今回の男性に関する正式な研究結果は表2である。

同様に、表3は40歳以上の全女性の集計結果である。

結果として、各群において、平均年齢に偏りがなかった。

したがって、今回の女性に関する正式な研究結果は表3である。

書籍に掲載の「食習慣点数表」。

結果:
表1〜3に記載。 表2&表3が検討のためのデータ。
(表1は年齢調整前の参考データ)

年齢による影響を無視できるように、各群の平均年齢が食5群の56.7歳に近似するように調整を行なった。(表2)

女性の場合は、45歳の全症例の集計で、各群の平均年齢がほぼ同じであったので、年齢調整は行なっていない(表3)。

結果:

1. 男性に関しては、
LDL値とT-max および C-maxとの有意な関係は認めなかった。
また、脳梗塞・心筋梗塞のリスクレベル≧3 の症例の頻度や食習慣点数に関しても、各群間での有意な関係を認めなかった。(表2)

2. 女性に関しては、
LDLが200以上の5群では、4群(LDL:140〜199)よりも有意にT-max、C-max 共に高値であった。また、5群では脳梗塞・心筋梗塞のリスクレベル≧3 の症例や食習慣点数が300点以上の症例が多い傾向にあった。

○ 1〜4群間では、LDL値とT-max および C-max、脳梗塞・心筋梗塞のリスクレベル≧3 の症例の頻度に関しても有意な関係は認めなかった。

3)45歳以上の男性(平均年齢:約56.7歳)では、LDLの数値にかかわらず、脳梗塞・心筋梗塞のリスクレベル≧3以上の症例が55〜73%も認められた。

4)45歳以上の女性(平均年齢:約61歳)に関しても、脳梗塞・心筋梗塞のリスクレベル≧3以上の症例が35〜54%も認められた。

考察:

○女性でLDL≧200の5群は、明らかにLDL140〜199の4群よりも動脈硬化が進行していたが、5群では食習慣点数が300を超える症例が比較的多く存在したためと思われる。

したがって、女性でLDL≧200の症例では、まず投薬ではなく、食習慣を細かく問診し、食習慣の改善に努めるのが肝要と思われる。

そのような症例では、食習慣指導後に速やかにLDLの低下をきたす症例が数多く存在する。

また、食習慣点数300点以上の症例が1群12.9%、5群43.9%であり(表3)、女性の場合は高脂質の食品の多食の結果としてLDLが上昇する場合があると考えられる。

高脂質食が原因で、結果として動脈硬化が進行するという事実は(動脈硬化の未来-152))に掲載済みです。

○健診の現場から、LDLと頸動脈プラークの関係に関する報告がなされているので紹介する。

以下は、臨床検査技師会が主催する九州支部医学検査学会(2015/10/9)にて発表された演題の抄録を切り抜きしてパネルにしたものである。

要約すると、
LDLなど、特定健診でチェックされた人たちを、二次健診として頸動脈エコーしたところ、

1.プラークが進行している人ほど、LDLが低値という傾向が見られた。
2.プラークが進行している人ほど、血圧は高い傾向にあった。
3.プラークの進行とBMI、腹囲はほとんど関係なく、プラークが最も進行した群ではA1cが高い傾向にあった。(LDLが低い人ほどA1cが高い傾向にあった)

つまり、「高血圧の根本原因はプラークである」・という私の仮説(動脈硬化の未来塾 56))を支持する結果です。

「LDLがプラークの原因である」(仮説)が正しければ、もっともLDLが高い群(頸動脈エコーで異常所見なしの群)の血圧は高くなければいけないし、頸動脈エコーでも異常所見が多く認められなければならない。しかし、二次健診の結果(事実)はその真逆であった。

就労者に対する健診のあり方への私の提言(動脈硬化の未来塾 152))が、まさしく正解だと感じさせる、医学における“ちっぽけな確実さ“が、この地方の臨床検査技師会の学会で発表されていました。

まとめ:
○男性では、“LDLが高いので動脈硬化が進行している”という説明は適切ではない。

○女性では、LDLが200以上の場合は、結果として動脈硬化がやや進行しているが、LDLが動脈硬化を進行させたのではなく、動脈硬化が進行するような食習慣でLDLが上昇し、同時にプラークも進行したと考えるのが適当だと思われる。

女性でも、LDLが199以下の場合は動脈硬化との関係性は認められない。

○医療機関で「健診ではLDLが低いので問題ありません」と言われても、決して安心してはいけない。

○LDLの結果にかかわらず、45歳以上の人は頸動脈エコーを受けるべきである。
可能なら、腹部大動脈、右鎖骨下動脈、大腿動脈の血管エコーも受けるべきである。

*************
--レオナルド・ダ・ヴィンチ--

“ ちっぽけな確実さは、大きな嘘に勝る ”

“ 視覚は数学の様々な部門を支配する。視覚による知識は最も確実なものだ ”

<・・・お知らせ・・・>
「脳梗塞・心筋梗塞・高血圧は脂が原因」(幻冬舎)2018年 初版から6年経過し、RAP食は年々進化を続け、2024年食事関係の内容を大きく進化させて(多くの事柄を修正)、実質的な改訂版が2024年2月に出版されています。

現在アマゾンで購入された2名の方で、第4刷(RAP食:2023年度版)が配送されていることを確認しています。

しばらく当院へ受診できていない方や、初版本〜第3刷までの食事療法を取り入れている方は、必ず第4刷を購入いただき、最新バージョンの食事指導内容への変更をお願いいたします。

 

2024年5月23日 記載
真島消化器クリニック
真島康雄

 


「脳梗塞・心筋梗塞の予防法」目次へ戻る

Dr.真島康雄のバラの診察室

携帯版のご案内

お知らせ

リンクページ