脳梗塞・心筋梗塞の予防法

食習慣点数の採点は、動脈硬化のレベルを推測可能であり、脳梗塞・心筋梗塞の予防に有益。

はじめに
健康診断の目的は、ガンの早期発見や社会問題でもある脳梗塞・心筋梗塞・認知症などの動脈硬化関連疾患を防ぐためのものです。

採血によるLDL値は重要なチェックポイントとされていますが、私の書籍に記載済みの多数のデータからは、LDLと血管プラーク肥厚との相関関係はほとんど認められません。

一方で、食習慣点数表を用いれば、ある程度のリスク判定が自分自身で可能ですし、その点数表の具体的な配点を基に、適切な食習慣変更も可能となります。

今回は、未来の健診のために開発されたと言っても過言ではない食習慣点数表の有益性に関して、科学的に根拠のある結果が得られたので報告します。

「今回の掲載に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」
(ただし、以下の私の書籍を購入されると私の利益となります)

<臨床研究>食習慣点数と動脈硬化の進行程度に関する研究

目的:
独自に開発した食習慣アンケート用紙を使い、問診あるいは自己採点による食習慣の点数化を行い、動脈硬化の進行レベルを推定できるかどうか検討した。

対象:
2010年7月1日から2024年4月26日までに、8カ所の血管エコーを行い、食習慣点数が判明している40歳以上の計5432人(男2575人、女2857人)を対象とした。

方法:
食習慣のレベルを5群(食1〜5群)に別けて、T-max, C-max, 脳梗塞発生の%、心筋梗塞発生の%、冠動脈ステント留置術(非心筋梗塞)を受けた%、糖尿病(服薬例)の%、高血圧(服薬例)の%をそれぞれ検討した。

食習慣の点数化は、下記の書籍に記載の食習慣点数表の配点に従った。
基本的には、高脂質の食習慣になるにつれて、高点数となります。
食1群(食習慣点数≧601点)
食2群(食習慣点数401〜600点)
食3群(食習慣点数251〜400点)
食4群(食習慣点数111〜250点)
食5群(食習慣点数≦110点)---- マイナス点の症例を含む

なお、C-max(単位:mm)とは左右の頸動脈(内頸動脈、外頸動脈、分岐部、総頸動脈)におけるプラークの高さ(IMT:血管の内膜中膜の肥厚の高さ)の最高値であり、総合動脈プラーク(T-max)とはC-max+A-max+F-max+S-max(mm)とした。

T-max,C-max,A-max,F-max,S-maxに関しての詳細は以下の書籍に記載。

また、表1は40歳以上の全男性の集計結果である。

しかし、結果として、各群において、平均年齢の偏りが生じたため(平均年齢は平均IMTを左右する最も大きな因子)、各群の平均年齢が均一になるような年齢調整を行なった(表2)。

したがって、今回の男性に関する正式な研究結果は表2である。

同様に、表3は40歳以上の全女性の集計結果である。

結果として、各群において、平均年齢に偏りがあるため、各群の平均年齢を男性と同じになるように年齢調整を行なった(表4)。

したがって、今回の女性に関する正式な研究結果は表4である。

書籍に掲載の「食習慣点数表」ですが、詳細は書籍を参照ください。

結果:
表1〜4に記載。表2&表4が最終検討結果のデータ。
(表1&表3は年齢調整前の参考データ)

各群の平均年齢が同一になるように、各群の平均年齢が食1群の61.7歳になるように調整を行なった。(表2)

男性と比較する上で、女性の各群の平均年齢を61.7歳になるように調整した。
各群の年齢調整の具体例はそれぞれ表に表記。(表4)

結果のまとめ
1)食習慣点数と各群の平均年齢に関して(表1&表3)
男性は、400点以上の食4群と食5群は、食1〜3群の男性よりも、平均年齢が明らかに若かった。
女性は、600点以上の食5群は、食1〜4群の女性よりも、平均年齢が明らかに若かった。

2)食習慣点数と頸動脈プラーク(C-max)の平均値に関して、

男性では(表2)、
食1群のC-max=1.62 mm(±0.91)( ):標準偏差
食2群のC-max=1.87 mm(±1.06)は、食1群のC-maxよりも有意に高値(p=0.006)
食3群のC-max=1.99 mm(±1.06)は、食2群のC-maxよりも有意に高値(p=0.04)
食4群のC-max=2.07 mm(±1.20)
食5群のC-max=2.00 mm(±1.08)
であった。

女性では(表4)、
食1群のC-max=1.21 mm(±0.63)
食2群のC-max=1.37 mm(±0.72)は、食1群のC-maxよりも有意に高値(p=0.00008)
食3群のC-max=1.45 mm(±0.79)は、食2群のC-maxよりも有意に高値(p=0.03)
食4群のC-max=1.49 mm(±0.78)
食5群のC-max=1.44 mm(±0.82)
であった。

・男女共に、食1群と食2群の間での比較において、食2群の方が食1群よりも有意に頸動脈プラークが肥厚していた。

・男女共に、食2群と食3群の間での比較において、食3群の方が食2群よりも有意に頸動脈プラークが肥厚していた。

・男女共に、食3群と食4群および食5群の間においては、それぞれの群間で有意な頸動脈プラーク肥厚は認めなかった。

2) 食習慣点数と総合動脈プラーク(T-max)の平均値に関して、

・男性では(表2)、
食1群のT-max=7.69 mm (±2.95)
食2群のT-max=8.34 mm(±3.26)は、食1群のT-maxよりも有意に高値 (p=0.03)
食3群のT-max=8.66 mm(±3.25)
食4群のT-max=9.00 mm(±3.36)は、食2群のT-maxよりも有意に高値(p=0.0009)
食5群のT-max=8.94 mm(±3.08)
であった(表2)。

女性では(表4)、
食1群のT-max=5.65 mm(±2.20)
食2群のT-max=6.20 mm(±2.49)は、食1群のT-maxよりも有意に高値(p=0.0001)
食3群のT-max=6.57 mm(±2.86)は、食2群のT-maxよりも有意に高値(p=0.005)
食4群のT-max=6.48 mm(±2.66)
食5群のT-max=6.41 mm(±2.71)
であった(表4)。

・男女共に、食1群と食2群の間での比較において、食2群の方が食1群よりも有意にT-maxが肥厚していた(表2)(表4)。

・男性は、食2群と食4群の間での比較において、食4群の方が食2群よりも有意にT-maxが肥厚していた(表2)。

・女性は、食2群と食3群の間での比較において、食3群の方が食2群よりも有意にT-maxが肥厚していた(表4)。

・男女共に、食3群と食4群および食5群の間においては、それぞれの群間で有意なT-maxの増加は認めなかった。

3)食習慣点数と動脈硬化関連疾患との関係性に関して、
・男女共に、食1群から食5群へ食習慣点数が高配点になる程、脳梗塞、心筋梗塞、冠動脈ステント留置、糖尿病、高血圧のリスクが高くなる明らかな傾向を認めた(表2&4)。

・男性の場合、食5群は食1群よりも動脈硬化関連疾患の発生リスクが、脳梗塞で2.8倍、心筋梗塞で約5.3倍以上、冠動脈ステントで3.0倍、糖尿病で2.8倍、高血圧で2.2倍もそのリスクが高かった。

・女性の場合、食5群は食1群よりも動脈硬化関連疾患の発生リスクが、脳梗塞で4.0倍、冠動脈ステントで6.7倍、糖尿病で2.1倍、高血圧で1.8倍もそのリスクが高かった。

参考資料:

考察:
1)表1&表3に示すごとく、脂質豊富な食品を大変好み、習慣的にそれらを摂取すれば食習慣点数は高値になるが、若い世代にそのような食習慣の人が男女共に多い傾向にあることが証明された。 このことは、厚生労働省の資料(国民の健康・栄養調査)でも同じ傾向が認められる。

2)食習慣点数表は、書籍「脳梗塞・心筋梗塞は予知できる」(幻冬社)2009年において食習慣(脂肪&糖分摂取を重要視)のアンケートで血管プラークの程度をある程度予測するために開発した手法であり、動脈硬化をある程度予測可能であった。

しかし、その後の食品摂取歴と血管エコー所見との関連性に関しての経験から、プラークの原因は塩分・糖質・LDLや高血圧ではなく、食習慣(特に脂質)との仮説を立て、2010年7月1日には、アンケート内容と採点基準の若干の変更を行なった。

上記の書籍の初版本(2018年)には、2010年7月1日改定の食習慣点数表を掲載し、初版本から現在の第4刷まで、点数表の改定は行なっていない。

3)LDL値とT-maxとの関連性がほとんどないことは上記の書籍に記載済みだが、例外として、LDLが200以上の女性では、プラークが有意に肥厚していた。
 最近、その理由がほぼ判明し、LDLが200以上の女性は食習慣点数が300点以上の高値例が多い傾向にあった。

4)日本の女性は日本の男性より、なぜ長生きできるのか? この問いに対する科学的に明確な説明が今回の食習慣点数と、T-maxやC-maxとの比較検討で明らかとなった。
食習慣の違いでプラークが明らかに肥厚し、男性の血管は女性の血管よりも、総合動脈プラーク(T-max)が著しく高値である。

同年齢の男女の比較でも、T-maxで2.0〜2.5程度の差が生じている。
この、T-maxの差が平均年齢を決定づける要因と考えられる。

したがって、平均寿命の性差による違いは、性ホルモンの問題ではなく、腸内細菌叢を破壊するような生活習慣とプラークが肥厚しやすい食品の摂取過多が原因であると結論づけたい。

5)脂質摂取過多が現代人の動脈硬化(プラーク)の主な元凶であることを、疫学調査ではなく、視覚に基づいた臨床データで科学的に証明できた。

今後の食事指導のための科学的な資料として有用と思われる。

確認事項として強調したいのは以下の2点である。

○今回の食習慣点数の配点には、塩分摂取量、糖質摂取量は考慮していない
(脂質摂取量が増加するにつれて、食習慣点数が加速度的に高得点になる)

○当院のRAP食においては、糖質制限は禁止しており、塩分制限も特に指導していないが、RAP食でプラークが退縮することは事実である。
したがって、塩分や糖質が動脈硬化の元凶ではないことは明白である。

6)女性に関して、第5群で心筋梗塞例は0例であったが、冠動脈ステントの症例は他の群の4倍以上であり、第5群で心筋梗塞が生じると、落命率が高い(突然死が多い)ものと推察される。

この推察は、男性にも当てはまり、男性の5群の心筋梗塞例(存命例)は男性4群の心筋梗塞例よりも少なく、男性の場合も第5群では突然死が多いのではないかとの推察が可能である。

7)食1群から3群にかけては、階段状に高血圧(服薬中)の症例が増加し、頸動脈プラーク(C-max)やT-maxが階段状に増加する事実が認められた。

最近の大規模な研究でも、同じ現象を観察していると思われる研究報告(横浜市立大学)が発表されている。

それは、NHKからの発信(動画もご覧ください)
血圧少し高めでもリスク 専門家“早めに生活習慣の改善を”

就労世代の高血圧の健康管理の具体的な指導内容として、昔の発想(塩分制限やストレスを溜めない)を今後も踏襲していては、効果が上がらないのは目に見えています。

以下には、今回の研究結果を受けて、健康管理が本当に有益であるための、私の提言を述べさせていただきます。

以下2枚のパネルは、横浜市立大学のレポートの抜粋です。

上記は、横浜市立大学からの非常に有意義な研究結果です。

この貴重な研究結果(問題提起)を踏まえて、今後の新しい・正しい対応が医学関係者に求められています。

そこで、
今回の私の、塩分摂取量・糖質摂取量を不問とした『「食習慣点数」と動脈プラークや動脈硬化関連疾患との関係』においての結果ですが、
「食習慣点数」が上昇するにつれて、頸動脈プラークが肥厚し、脳心血管疾患の発症も増加し、高血圧になる頻度も増加しています。

しかも、糖尿病発症・悪化にも関与しているものと思われます。(表2&4)

また、本態性高血圧の根本原因は動脈プラークであり(動脈硬化の未来塾 56))

その高血圧の原因であるプラークが、塩分摂取量は不問の「食習慣点数」と有意な相関関係にあることは今回証明しています。

したがって、正しい対策は、「少し高い血圧段階からの血圧管理(現状は塩分・ストレス管理)」ではなく、

未来の医療としては、

「少し高い血圧段階からの脂質摂取管理」or

将来的には、「少し高い血圧段階からの動脈プラーク管理が、正しい「取り組み」と思われます。

○「血圧が管理」され→脳・心血管疾患が予防・・・・ではなく、

○「脂質が管理」され→「動脈プラークが管理」され→脳・心血管疾患が予防・です

 「高脂質食」「動脈プラーク肥厚」「血管内腔が狭小化」→血圧上昇
つまり・・・
血圧上昇(高血圧)は単なる結果です。

もし私が就労者の健康管理の責任者なら、
正常高値血圧〜高値血圧などの就労者に対しては、医療機関での頸動脈エコー受診を勧奨します。

その上で、「食習慣点数表」での自己採点をおこない、110点以上の就労者に対しては、栄養士あるいは保健師による脂質摂取過剰にならない様な食事指導の研修会を行います。

降圧剤服用者に対しても、医療機関での頸動脈エコー検査&食習慣点数の自己採点を勧奨し、食習慣の是正がなされるような研修会を行います。

でも、根本的な高血圧治療の観点から、禁煙、減酒・禁酒の勧奨はしても、秋田県の例を踏まえて(動脈硬化の未来塾 8))塩分制限の指導は、あえて行いません。

塩分制限に努めても、それが自己満足・安心感となり、降圧剤は一生服用し続けなければいけません。

このような対策で、かなりの数の就労者が降圧剤服用から解放され、脳・心血管疾患の発症もかなり予防できるはずです。

塩分制限は、高血圧の根本原因である血管プラーク治療に対しては全く無効です。

何か一つの努力なら、脂質摂取制限でしょう。

1日脂質摂取量が20g以下の厳しい制限は必要ありません。
厚生労働省の推奨する1日70g程度(男性)、55g程度(女性)の摂取では多過ぎます。

血圧がやや高めなら、とりあえず1日の脂質摂取量を普段よりも5〜10g〜15g減らしてみてはいかがでしょう。

まとめ:
○食習慣点数による動脈硬化判定は、40歳以上で5000人以上のデータを基に、科学的に根拠のあるリスク判定法であることが証明されました。

○食習慣アンケートは動脈硬化予防のための食習慣指導に十分活用可能である。
場合によっては、動脈硬化改善につながる可能性も考えられる。

○食習慣点数が200点以上の場合は、積極的な頸動脈エコー受診への誘導が求められる。

○食習慣点数は自己採点が可能であるので、LDLが低い人も高い人も一度はアンケートに答えてみましょう。それだけで不幸な身体にならなくて済むかもしれません。

○今回の研究を踏まえて、健康診断における生活習慣病を予防する観点からの食習慣指導を、従来の塩分制限・糖質制限から決別し、「過度な脂質摂取を制限」(1日脂質摂取量を40〜45g程度の摂取)を基本とする食習慣指導へと舵を切るべきであろう。不足のエネルギーはタンパク質・糖質摂取で補うべきである。

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以下の参考資料:厚生労働省

○男女共に、生活習慣病の予防となる脂質摂取量は40〜45g/日と思われる。

注):厚生労働省の脂質摂取の基準量の策定に関しては、原文を読む限り、様々な結果の研究報告があるが決め手はなく、結局のところ、現状の脂質摂取量を大幅に逸脱しなければいいだろうとの見解に受け取れる。

私の見解では、最も参考になる資料は 過去の日本人の年次推移の脂質摂取量と思われる。癌や脳・心血管疾患がいつ頃から増加したのか?それを踏まえて脂質摂取量を推奨可能です。

海外の疫学調査を詳細に検討しても、答えが出るはずもありません。
日本の戦後から現在までに至る脂質摂取量と、ガン・脳梗塞・心筋梗塞の発症数(死亡数ではなく)など、それらを重ね合わせると、理想的な脂質摂取量は専門家でなくても推定可能です。

実は、日本の年次推移の脂質摂取量を眺めていると、“私の感“ですが、癌死の急速な増加にも大きく関与しているような気がします。

前立腺癌と大腸癌は間違いなくプラーク肥厚(動脈硬化の進行)と関係しています。その他のガンも?

*************

つぶやき・・・

血管内を見ることなく健康管理を行う限り、血管の中がプラークで閉塞して発症する脳・心血管疾患(脳梗塞や心筋梗塞など)を予防できないことは、専門家でなくても理解できるはずです。

MRAは初期の頸動脈プラークに関しては、感度が鈍いので適応ではありません。
血管年齢の検査も、血管プラークを判断できる検査ではありません。

現在の医療現場では、LDL値で、あたかも血管内を見ていることとみなす医療が一般的です。

実際にはLDL値で血管内のプラークの状況は見えませんし、安心すべきではありません。

 

--レオナルド・ダ・ヴィンチ −

“ 視覚は数学の様々な部門を支配する。視覚による知識は最も確実なものだ ”

“ ちっぽけな確実さは、大きな嘘に勝る ”

 

2024年5月13日 記載
真島消化器クリニック
真島康雄

 


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