久留米市野中町の肝臓内科・血管内科・消化器内科・乳腺内科です。電話:0942-33-5006
食・生活習慣の変更で、初期の低リスクの前立腺ガンを縮小させることができるか?
つまり、
RAP食+ライフスタイル変更で発癌予防、がんの再発予防が可能か? その根拠は?
この結果は、前立腺ガンに限らず、ものすごく知りたいですよね。
下のパネルは、オーニッシュ氏が講演の際に出席者に問いかけるテーマです。
科学的な方法による実験的な研究論文が、この医学上の「問い」に答えてくれます。
その論文とは・・・
「INTENSIVE LIFESTYLE CHANGES MAY AFFECT THE PROGRESSION OF PROSTATE CANCER 」 Ornish D et al. Jounal of Urology. 2005; 174:1065
タイトル和訳: 「ライフスタイルの急激な変更は前立腺ガンの進行に影響を与える可能性がある」
筆頭研究者はOrnish教授ですが、主任研究者は泌尿器科の各分野の教授が関わった研究で、米国議会の大物議員が支援者として名を連ねています。
研究の目的と方法です。
Ornishの「ライフスタイルプログラム」の具体的な内容です。
結果:
<栄養摂取に関する結果>
・実験群では、カロリーの11.2%(平均) が脂質からの摂取でした
・・つまり1日1600〜2000Kcal摂取なら・・
(脂質で179〜224Kcal/d≒20〜25g/dの脂質摂取)動物肉=非推奨
<PSAの変化> 1年後
・対称群では平均PSA=6.36→6.74(+0.38)へ上昇
・実験群では平均PSA=6.23→5.98(-0.25)へ低下 (F=5.6, p=0.016 , Fig1:下図)
備考:対称群の4例は、PSAが大きく上昇のために治療を開始すべきだと判断された。
この4例が脱落しなければ、この差はもっと開いていたでしょう(考察内コメント)
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食事とライフスタイル変更の程度(遵守の程度)が PSA の減少(r = -0.23、p = 0.035、図 3)と有意に関連していることを示した。(下パネル)
<対照群・実験群の血清を用いたLNCaP 細胞増殖率の変化> 1年後
『解説:・・・疾患の進行をモニタリングするために、血清刺激による LNCaP 細胞増殖の変化も含めました。LNCaP 細胞株は、さまざまな治療介入のメカニズムと利点を研究するために広く使用されています。
この細胞株はもともとアンドロゲン依存性前立腺がんの患者から採取されたもので、前立腺がん細胞増殖を刺激または低下させる可能性のある因子を調査するために数多くの研究で使用されています。』
<結果>
・FBS(ウシ胎児血清:患者血清との比較用の血清)は各アッセイのコントロールとして使用。結果は、FBSの%として表示。
・実験群の患者血清は、FBSに比べて、平均で70%も強くLNCaP細胞の増殖を抑制した。
・対照群の患者血清は、FBS=ウシ胎児血清(患者血清との比較用の血清)に比べて、平均で9%だけLNCaP細胞の増殖を抑制した。
<結果のまとめ>:
実験群の患者血清は、対照群の患者血清よりも LNCaP 前立腺がん細胞の増殖を約 8 倍減少させました (9% 対 70%、p<0.001)。
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****感想***
実験群の患者血清には、「前立腺がん細胞の増殖を抑える何か?が増加している」ことになります。--この点に関して、論文中の考察には記述がありませんでした。
それでは、
オーニッシュ・プログラムを遵守した実験群の患者血清に、いかなる変化が生じているのでしょう?
○2024年のノーベル生理学・医学賞は「マイクロRNAの発見と、転写後遺伝子制御におけるその役割」により、線虫研究者であるVictor Ambros教授とGary Ruvkun教授に授与されました。
ヒトの遺伝子の働きを制御できる「マイクロRNA」を発見した2人の研究者が受賞。
この、最先端学問であるマイクロRNA(miRNA)---特に “ガン抑制的マイクロRNA” が、野菜を非常に多く摂取する実験群の患者血清で増えたのかもしれません。
植物細胞由来のある種のmiRNAが、がん細胞に抑制的に作用したのか、人体の正常細胞由来の”ガン抑制的miRNA”が増えたのか? または、運動を含むプログラム遵守の過程で、筋細胞あるいは全身の細胞由来の”ガン抑制的miRNA”が増えたのか・・・
とにかく、実験群の血清中の何か?が変化していることは証明されました。
『豆知識:2023年のノーベル賞(医学生理学)受賞は、新型コロナウイルスの「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン」の開発で大きな貢献をした、ハンガリー出身でアメリカのペンシルベニア大学の研究者、カタリン・カリコ氏と、同じくペンシルベニア大学のドリュー・ワイスマン氏の2人でした。』
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食事とライフスタイルを変更した程度が、LNCaP 細胞増殖 (r =-0.37、p<0.001、図 4) と有意に関連していることを示した。(下パネル)
------感想------
RAP食もそうですが、守れれば、守れただけの効果は得られる。
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実験群のある1例:前立腺がんの縮小をPET MRI画像で確認
(非常にインパクトのある写真ですが、全ての症例がこのような改善をきたすとの誤解を与えかねないために?論文には掲載なし)。
(画像診断写真の出典:Ornish氏のユーチューブ内講演スライド)
この写真(事実)は、多くの人に勇気と希望を与える写真かと思います。
橙色の部分が前立腺がんで、1年後、PSAは低下して、橙色のガン部は明らかに小さくなっています。
<実験の結果>
●実験群では1年間、病状の進行がなく、標準的な治療を受ける必要性がなかった
●対象群では1年以内に、6名が標準的な治療を受ける必要性が生じた。
(4名はPSAの上昇、2名はMRIで病変部が進行したので治療が必要になった。)
(上記6名中3例は切除術、1名はホルモン療法、1名は外部照射、1名は小線源療法)
研究支援者:
ナンシー・ペロシ下院議員とジョン・マーサ下院議員、アーレン・スペクター上院議員とテッド・スティーブンス上院議員に支援 を受けた。
出典:Ornish D et al. Jounal of Urology. 2005; 174:1065
-----------感想---------- -----------------------
いかなる部位のガンであっても、いかなるステージのガンであっても、治療後の再発を心配している方、親族、家族にガンが多くて心配している方・・・
現時点で、自分でできる、正しい努力(野菜を多く、小魚以外の肉類を少なく、低脂質食で、運動やボランティア活動・座禅・ヨガなど・・)そういうことが、ガンの発生を抑え、ガンの発育・進行を抑え、ガンの再発・転移を抑える可能性があることを、オーニッシュ教授は科学的に証明しました。
これからの人類にとって、正しい医学の方向性を示したと言えます。
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Ornish氏の講演口述に
『前立腺がんが、食事などで小さくなる・・・ この原因の一部は何かと考えました』、とあります。
そして、ハーバード大学公衆衛生大学院での研究を紹介しています(下記)。
その研究とは、
研究目的と結論:(ハーバード大学ホームページより抜粋)
「現在、前立腺がんを患う男性に、生存率を改善するために生活習慣をどのように変えるべきかをアドバイスできる証拠はほとんどありません。
「私たちの研究結果は、心臓に良い食事が、特に前立腺がんで死亡する確率を減らすことで、これらの男性に利益をもたらす可能性があることを示唆しています」
米国の前立腺がんを患う約 300 万人の男性の生存率を改善するために食事が役立つ可能性があるという考察を提供しています
<研究の対象者>
前立腺がんと診断された926人の男性の健康および食事に関するデータを調べた。
対象者は、診断後平均14年間男性を追跡し、西洋式の食事パターンに従っているか、「慎重な」(野菜、果物、魚、豆類、全粒穀物の摂取量が多い)食事パターンに従っているかによって、対象者を四分位に分けた。
<結果>
・主に西洋式の食事を摂っている男性(西洋式の食事パターンの最高四分位に属する男性)は、最低四分位に属する男性よりも、前立腺がん関連死のリスクが2.5倍高く、あらゆる原因による死亡リスクが67%高いことを発見した。
・主に「慎重な」食事を摂っていた男性は、あらゆる原因による死亡リスクが 36% 低かった。
<まとめ>
「これらの結果は励みになるもので、この分野に関する文献の少なさに拍車をかけるものですが、研究対象者は全員医師であり、そのほとんどが白人であることに留意することが重要です。したがって、私たちの研究結果が、より多様な社会経済的および人種的/民族的背景を持つ他の研究でも再現されることが非常に重要です」と、ハーバード チャン スクールの研究員で主執筆者の Meng Yang 氏(以下論文の筆頭著者)は述べた。
(ハーバード大学ホームページより)
・・・・・以上の下記論文の要約は、ハーバード大学のホームページの記述を引用。・・・・・
高脂肪(脂質)食を摂っていた白人Drは前立腺がんで死亡するリスクが250%も高いことが明らかになった。(Yang M,et al. Cancer Research, June 2015 10: 1158/1940-6207.)
ハーバード大学の論文(上記)を紹介した上でOrnish Drが講演の際に述べたのは・・
『・・・』:Ornish氏の講演口述の翻訳内容
『つまり、リスクが増加するだけでなく、実際にリスクが減少しているのです。・・・
前立腺がんは転移した場合にのみ問題となりますが、肉由来の食事には腫瘍が転移する可能性を高める何かがあります。そこで、そのメカニズムの一部が何か疑問に思いました。』
---------- ここからが、Ornish 医師のすごい所です。--- -------------
『これらの発見を説明するために、遺伝子発現を調べたところ、たった3か月で500以上の遺伝子が変化したことがわかりました。
『私が医学部にいた頃、それほど昔のことではありませんが、
遺伝子は遺伝子に縛られているので、遺伝子を変える唯一の方法は親を変えることだと言われましたが、もちろんそれはできません。
しかし、遺伝子はタンパク質、ヒストン、非ヒストンタンパク質、メチル化などによって制御されるスイッチによって制御されており、基本的に遺伝子をオンにしたりオフにしたりします。
つまり、がんや慢性炎症、酸化ストレスなど、これまで話してきたさまざまなメカニズムを引き起こすような悪い働きをする遺伝子をオフにできれば、遺伝子を効果的に変えることができます。』
『特に、前立腺がんや乳がん、大腸がんを促進する遺伝子が、数か月以内にオフになっていることがわかりました。 これ(下パネル)はヒートマップと呼ばれるものです。右側にはがんを引き起こすさまざまな遺伝子があり、最初は左側ではほとんどが赤ですが、つまり
これらの遺伝子はオンになっていますが、3か月後には(左側の赤い部分)が、右側では緑色の部分になり、ほとんどオフになっています
これはかなりすごいことだと思います。これはこれまで示されたことがなかったことです。また、これらを引き起こす遺伝子もオフにしていることが分かりました』
『豆知識』:
・DNAの塩基配列を変えずに細胞が遺伝子の働きを制御(on, off)する仕組みを研究する学問をエピジェネティクスと言います。詳細は、“エピジェネティクスとは”で検索ください。Ornish教授の講演内容が理解しやすくなります。
・上パネルの論文の共同研究者:J. Craig Venter氏は最初にヒトゲノムを解読した人物として有名。
<がん関連のOrnish 教授の研究結果の紹介>
●<VEGFに関する研究>
前立腺がんがライフスタイルの変更によってがん細胞の発育が抑制される、あるいはガンが縮小する可能性をOrnish Drは証明した。
そして、その背景の研究として、VEGF(血管内皮増殖因子)に関する比較試験が氏の講演(ユーチューブ)で紹介されている(上パネル)。(論文の出典は不明)
結果:
●対照群(n=22)のVEGF活性は普通に高い。(ライフスタイルを変更しない群)
●実験群(n=22)のVEGF活性は1/3以下であった。(ライフスタイルを変更した群)
氏は講演で『腫瘍が血管を成長(血管新生)させて栄養を与えるために分泌するVEGF(血管内皮増殖因子)をダウンレギュレーション(分泌量を低下)できることを発見しました。』と口述。
『アバスチンやネクサバールなどの薬(血管新生阻害剤)はVEGFを阻害しますが、服用には1人あたり年間10万ドルかかります』『ライフスタイルの変化は無料です』
と口述。
『豆知識』:
・アバスチン(ベマシズマム):日本でも多くのガン化学療法で併用が認められています。ライフスタイル変更を追加すると更に効果的かと思われます。
-----つぶやき---------
●ここまでお読みいただいた方にはご理解いただけたと思いますが、Ornish医師のおかげで、我々は動脈硬化・ガンに対する新たな無料の科学的な武器を獲得することができました。
ハーバード大学も・・“心臓に良い食事が、特に前立腺がんで死亡する確率を減らす”・・と、公式に認めています。
この、“心臓に良い食事”とは、前回の記事で紹介したOrnish Drの推奨する食事のことです。
今回の記事は、
ガン患者さんや、ガンの再発を心配されている方達に、まだ病院の先生もご存知ではないであろう・・自分にしかできない・・無料で・科学的な・・未来的なガン対策を理解でき、希望の光となることでしょう。
医学は、薬を投与する、それを受け取るだけではいけません。
これからの動脈硬化・ガン・認知症・糖尿病などの分野の医学は、エピジェネティクスを理解し、マイクロRNAの作用に注目しつつ、その臨床応用に心がける必要がありそうです。
でも基本は、まずは脂質制限食です。
(ただし、脂質制限食だけでは、ガンも動脈硬化も治ることは困難です)
1日脂質摂取を25g前後:昭和35年(1960)頃の日本人の平均の脂質摂取量へ回帰すべきです。
日本では
1日脂質摂取が52gとなった昭和51年(1976)頃から急速にガン患者が増加し、脳梗塞・心筋梗塞も増加しました。
私の見解ですが、脳梗塞での死亡は、輸液療法の普及(1960〜1965以降)により、その死亡者数は減少を続けていますが、ご存知のように、脳梗塞後の後遺症で障害を持ったまま生活されている人は増えています。
私の見解ですが、心筋梗塞などの心疾患の死亡数は、1994年に冠動脈ステントが承認されて、一旦死亡数は減少。しかし、その数年後には同じスピードで増え続けています。
これは、心筋梗塞の絶対数が増えていることと、ステントで救えない心筋梗塞が多く存在することを物語っています。ステント後に、本気で食事指導がなされていないことも一因かもしれません。
脂質は、本当に制限すべきです。
問題は糖質(炭水化物=糖質+食物繊維)ではありません。
国民健康・栄養調査によれば
1960年の日本人の平均の炭水化物摂取量は339g
1976年は・・・・・・・・・・・・・・・332g
2017年は・・・・・・・・・・・・・・・266g 糖質摂取は減少!でも病気は急増!
●ケリーA・ターナー博士をご存知ですか?
『ケリー A. ターナー博士(女性)は、統合腫瘍学の分野の研究者、講師、コンサルタントです。彼女の専門研究は、がんの根治的寛解です。
根治的寛解とは、従来の医療がない場合、または従来の医療が効かなかった場合に起こる寛解です。ターナー博士は、ハーバード大学で学士号、カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得しています。(Amazonの著者紹介より)。』
米国で2015/9/15発売の書籍『Radical Remission: Surviving Cancer Against All Odds』
では、過去15年間で、1500件の「Radical Remission(完全寛解)」のケースを分析する研究内容を記載。米国でベストセラーとなり、22言語で出版されています。
日本でも、翻訳本が出版され、ベストセラーとして多くの方に愛読され、ステージ4の方へ希望と勇気を与え、大きな心の拠り所となっているようです。
ケリーA・ターナー博士は、ユーチューブ内のインタビューで、『Ornish医師のような研究(前立腺がんに関する研究)が、私が望んでいるものです。』と、述べるなど・・・
Ornish 医師の科学的な研究が米国の統合医療の分野にも多大な影響を与えているのは間違いありません。
2024年10月27日
真島消化器クリニック
真島康雄