久留米市野中町の肝臓内科・血管内科・消化器内科・乳腺内科です。電話:0942-33-5006
はじめに
我が国で、膵癌は男女共にこの10年間で急激に増加中です。がん死亡数の統計では、
男性 14,569人(2010年:がん死第5位)→18.880人(2020年:がん死第4位)
女性 13,448人(2010年:がん死第4位)→18.797人(2020年:がん死第3位)
そこで、スタチンの長期服用が膵がん罹患と関係するか? とういう観点から自験例を集計してみました。
<研究目的>
スタチンの長期服用と膵がん罹患率に関係性はあるか? 自験例での後ろ向きの検討
「今回の掲載に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」
<期間>
2007年7月1日から、2024年8月9日までの期間(約17年間で検討)。
<対象・方法>
8カ所の血管エコーを受けた6815人を対象に、服薬の既往歴や診療開始後の服薬記録において、A群、B群に分けて膵がんの罹患率を検討。
A群:短期間でもスタチンを服用した経験のある症例は1990例。
B群:スタチンを服用した経験のない症例は4825例。
<結果>
A群では6例の膵がん罹患(臨床的な確定診断)-罹患率は0.302% (B群の7.9倍)
(6例中5例は4年以上のスタチン長期服用者)
B群では3例の膵がん罹患(臨床的な確定診断)-罹患率は0.062%
A群とB群の間で、p=0.035 (有意差あり)
当院における17年間の膵がん罹患症例。(他病院で診断された例を含む)
Case No |
診断時年齢 | 性別 | スタチン服用期間 | スタチン中止から診断まで(期間) | 診断時年 | スタチンの種類 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 55 y | 女性 | 2年 | 0日 | 2009年 | リピトー(5)1 |
2 | 74 y | 男性 | 服用なし | --- | 2016年 | ----- |
3 | 82 y | 女性 | 4年 | 9年 | 2020年 | リピトー(5)1 |
4 | 61 y | 女性 | 8年 | 0日 | 2022年 | クレストール(5)1 |
5 | 62 y | 男性 | 服用なし | --- | 2022年 | ----- |
6 | 87 y | 女性 | 4年 | 11年 | 2022年 | リピトー(5)1 |
7 | 83 y | 女性 | 11年 | 11年 | 2023年 | リピトー(10)1 |
8 | 76 y | 男性 | ≧5年 | 15年 | 2023年 | メバロチン(10)1 |
9 | 72 y | 男性 | 服用なし | --- | 2024年 | ----- |
(9例共:糖尿病なし)
*2020年から、膵がん症例(臨床的な確定診断)が急に増加
*膵がんのセカンドオピニオン受診例は除く
<コメント&感想>
●A群での膵がん罹患:6例中の5例は4年以上のスタチン服用歴があった。
--この結果を踏まえて、サブ解析を行いました--
・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・
<サブ解析>
●スタチン服用者の母集団は1990例ですが、この中には短期・長期の服用者が混在しています。--したがって、4年以上服用した症例の数を概算してみます。
1990例中のランダムな30例中15例(50%)が4年以上のスタチン長期服用者でした。
そこで、1990例の50%は995例となります。
したがって、全症例を3群(a, b群の母集団数は概算)に分けて検討しました。
a群:4年以上のスタチン長期服用例995例(概算)。
b群:4年未満のスタチン服用例995例(概算)。
c群:スタチンを服用した経験のない症例は4825例。
a群から5例の膵がん罹患---罹患率は0.503%--(c群の8.1倍の頻度)
b群から1例の膵がん罹患---罹患率は0.100%--(c群の1.6倍の頻度)
c群から3例の膵がん罹患---罹患率は0.062%
したがって、
a群とc群における、それぞれの発生比率の差の検定では p=0.0032 (有意差あり)
b群とc群における、それぞれの発生比率の差の検定では p=1.192 (有意差なし)
<サブ解析の結論>
*4年以上スタチンを飲み続けると、8倍も膵がんになりやすい。(有意差あり)
(スタチン4年未満の服用者の膵がん罹患率は、スタチン服用歴のない人と同じ。)
<まとめ>
!)4年以上もスタチンを服用したことのある人の膵がんリスクは、スタチンを全く服用したことのない人に比べて、約8.1倍(有意差あり)なので、早めに膵臓エコーを受けるなどの注意が必要。
2)4年未満のスタチン服用歴のあるb群のリスクは、スタチン服用歴が全くないc群のリスクとほぼ同じ(有意差なし)であった。
3)臨床現場でのスタチンの適応・継続には慎重になる必要がある。また、「スタチン4年以上服用症例は膵がんのハイリスク」として、注意を払う必要がある。
<考察>
●2024年2月、スタチンとガン罹患に関する大規模な疫学調査における衝撃的な結果の報告が、国立がん研究センターよりなされました。
詳細は以下でご確認ください。
抗コレステロール薬の長期服用とがん罹患リスクとの関連について
(国立がん研究センター 2024年2月公開)
過去に日本で、「血圧を下げる薬で脳梗塞を予防できるかどうか」の試験に際し、データ改ざん事件(2014年)『論文作成においてイベントの水増し、恣意的な群分け、データの改ざん事件』がありましたが、
今回の、大規模なスタチン薬服用とガン罹患数に関する研究の、特に膵癌の発生数(イベント数)のデータ改ざんは不可能です。
恐らく、「スタチンがガンを予防するかも?」という仮説に基づく検討かと思います。
ところが、事実は意外な結果でした。
(国立がん研究センターの調査結果の内容)
○スタチンを5年以上も服用したら(した経験があれば)、その後に膵がんになる確率がスタチンを服用したことがない人よりも・・1.59倍に跳ね上がる!(有意差あり)という結果です。
○スタチンを5年以上も服用していた人は、肝がんになる確率が74%も減った(有意差あり)との結果です。
『大規模疫学調査結果に関する感想』
・肝癌より膵がんが10倍も怖いことは、消化器のがん専門医なら誰でもご存知です。
今回の結果を受けて、自身のスタチン服用を中止するDrが必ずいらっしゃるでしょう。
・動脈硬化のリスク軽減なら、スタチンなどの薬を使った標準医療よりも食事・生活習慣を変える治療の方が数段も有益*ですから、膵がんを増やす副作用の方が、格段に怖いことです。(*:米国からの情報を今後掲載)
*膵がんの5年生存率(切除不能例を合わせた全体で)は10%未満とされています。
・膵癌は通常の生活習慣病の健診では、早期発見はまず望めません。
●スタチンの平均4年の長期服用で、悪性リンパ腫への罹患率が約2倍に増加。
「安易なスタチンの適応拡大は慎むべき」と警鐘を鳴らす以下の研究があります。
スタチンがリンパ性悪性疾患を増加か、日本の症例対照研究が示唆
・・・つぶやき・・・
☆ 糖尿病でスタチンの服用を続けるのは、得策ではありません。
なぜなら、
糖尿病だけでも膵がんリスクは2倍もあるのに・・
スタチンで膵がんになるリスクが更に増しますし、
スタチンでA1cが減ることはありませんし、
スタチンで糖尿病を悪化させる恐れがありますし、
スタチンで動脈のプラークが減ることはありませんし、
スタチンで倦怠感や不定愁訴・うつ傾向・筋肉痛など、様々な副作用例もありますし、
スタチンで自分のお金も余計に使いますし、
スタチンで国費も余計に使いますし、
・・・・で本人にとっては、どんな利益があるのでしょう。
こんな科学者のご意見もあります。
→ 糖尿病者にスタチンは禁忌―緊急提言 - J-STAGE
☆ スタチン中止を担当医に希望するが、聞いてもらえない場合は、
上の「国立がん研究センター公開の棒グラフ」を印刷して持参し、『 肝がんより膵がん怖いです・・先生! 食事で頑張ります! 』と、相談してみてはいかがでしょう。
相談を受けた後で、膵癌になられたら責任を問われかねないので、きっと「自己責任で・・」という前置きで、担当医のご意見が変わるかもしれません。
☆この記事がきっかけでStage-0〜1 の膵がんが発見されれば幸いです。
備考:
膵臓エコーは、膵臓専門医・肝臓専門医・消化器病専門医や腹部領域の超音波専門医、あるいは超音波検査士の資格を有する臨床検査技師・看護師などが在籍する病院・クリニックでの検査が推奨です。
膵がんの早期発見方法・膵がんのリスクが高い人は?などを詳しく知りたい方は・・
こちら(下)をクリック
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なお、落谷 孝広 教授(現東京医大)により開発された、エクソソーム による膵癌がん早期診断(ステージ0〜1)に関する最先端医学に興味ある方は
こちら(下)をクリック。
テオリアサイエンス株式会社|最先端エクソソーム研究で ...
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『付録』の研究
スタチン服用と前立腺がん罹患との関係性を調べました。
<研究目的>
スタチンの服用と前立腺がん罹患率に関係性はあるか? 自験例での後ろ向きの検討
「今回の掲載に関連して、開示すべき「利益相反」関係にある企業はありません」
<期間>
2007年7月1日から、2024年8月23日までの期間(約17年間で検討)。
<対象・方法>
8カ所の血管エコーを受けた男性3249人を対象に、服薬の既往歴や診療開始後の服薬記録において、A群、B群に分けて前立腺がんの罹患率を検討。
○A群:前立腺がん罹患時点での、短期間でもスタチン服用歴(+)の症例は概算637例。
○B群:前立腺がん罹患時点での、スタチン服用(-)の症例は概算2622例。
<結果>
A群では637例中22例が前立腺がん罹患(確定診断)。----罹患率は3.454%
(がん罹患前にスタチンを短期あるいは長期服用したことのある22症例)
B群では2622例中86例が前立腺がん罹患(確定診断)。 ----罹患率は3.61%
(がん罹患前にスタチンを短期あるいは長期服用したことのない86症例)
A群とB群の間で、それぞれの罹患率の差の検定では p=0.624% (有意差なし)
『備考:研究手法の背景として、前立腺がんの予後は良く、当院パソコンデータでは、男性3249人中108例が前立腺がんに罹患している。パソコンデータ上ではスタチン服用既往のある前立腺がん罹患症例37例の服薬記録を精査すると、37症例中の14例(37.8%*)は前立腺がん罹患後のタチン服用例であった。
したがって、前立腺がん罹患時期からの長い経過中におよそ37.8%の人々が、スタチン服用既往(―)から(+)の群に移行したと考えられる。この点を考慮(以下)して上記のグループを母集団とした。』
『A群:短期間でもスタチンを服用した経験のある症例はパソコンデータ上1008例。
(ただし、この37.8%*(381人*)を差し引いた1008-381=627人(概算)をA群の母集団)
B群:スタチンを服用した経験のない症例はパソコンデータ上2241例。
(ただし、この381人*を追加した2241+381=2622人(概算)をB群の母集団とした)』
<付録研究の結論>
国立がん研究センターの調査結果と同じで、
スタチン服用と前立腺がん罹患との関係性は、認められなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
< レオナルド・ダ・ヴィンチ >
“ ちっぽけな確実さは、大きな嘘に勝る ”
“ 視覚は数学の様々な部門を支配する。視覚による知識は最も確実なものだ ”
< 本庶 佑 教授 > 2018年:ノーベル医学・生理学賞の受賞者
“教科書に書いてあることを信じない”
“自分の目でモノを見る
2024年8月26日 記載
真島消化器クリニック
真島康雄